車といい電車といい、どうして乗り物の揺れはこうも眠気を誘うのだろう。念願の月島君とのデートだというのに、眠くてたまらない。

今日をあまりにも楽しみにするばかりに、昨夜はなかなか眠れなかった。今日は今日で、月島君と一緒にいられることが嬉しくて、はしゃぎすぎてしまった気がする。緊張も少なからずしていた。考えうる要因のそのどれもが、恐らく今の眠気に結びついているのだろう。少しずつ重くなる瞼。僅かでも気を抜いた瞬間に、カクンと揺れる首。その度に瞬きを繰り返して、眠るまいと思い直して背筋を伸ばしてみる。

「眠いなら寝たら?」

ずっと無言で隣に座っていた月島君が不意に口に開いた。うとうとしていたことに気付かれていたことが恥ずかしくて、あわあわと両手を振る。

「だっ、大丈夫!別に眠くなんてないよ!」
「さっきからずっと船漕いでたくせに何言ってるの。」
「うう…。」

月島君の容赦ない言葉に口を噤む。眠くないふりも、しらばっくれることも、月島君の前では通用しないらしい。だけど、折角一緒にいるのに寝てしまうなんて。寝顔を見られてしまうことだって恥ずかしいし。

「それとも何?どうしても寝たくない理由でもあるワケ?」

その質問に、正直に答えるべきかどうか一瞬迷う。迷って結局、月島君にはきっとその場しのぎの嘘や誤魔化しなんて意味がないのだろうなと思って、ゆっくりと口を開く。

「…折角月島君と一緒にいるのに、寝ちゃうなんて勿体無いなあって。」

正直に白状すれば、月島君はふん、と鼻で笑った。次の停車駅のアナウンスが聞こえる。私達が降りる駅はまだ少し先だ。

「馬鹿じゃないの。」

ばっさりと一蹴されて、返す言葉もなく俯く。月島君のこういうクールな所はカッコイイけれど、時にその言葉はグサリと私の心を突き刺す。もう少し打たれ強くならなきゃ駄目だなあ、と内心でため息を零す。

「明日もその次の日だって嫌でも毎日顔合わせるのに。一瞬の感傷のために我慢して何になるの。」
「でも、」
「いいから早く寝なよ。着いたらちゃんと起こしてあげるから。」

それとも僕はそんなに信用できない?
月島君の言葉にぶんぶんと頭を振る。信用できないなんて、そんなこと思ってない。だけど、冷たい言い回しが痛い。そんな言い方しなくてもいいじゃない。思っても言葉に出せない私は臆病だ。
俯いていると、月島君があのさ、と口を開いた。

「別に君を責めてる訳じゃないんだから、勘違いしないでくれる?そういう君の感傷的な所、僕は嫌いじゃないんだから。」

思いもよらない言葉に、がばっと顔を上げる。私を見下ろしている月島君の視線が、何だか優しく思えた。それはすぐにふい、と逸らされてしまったけれど、何だか嬉しくて笑みを零す。
ありがとう、と呟いてみる。月島君は何も言わなかったけれど、それでもいい。彼は多分そういう人だ。

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

とん、と月島君の肩に頭を寄せてみる。私を振り向いた気配がしたけれど、気付かないふりをして目を閉じる。
ガタン、ゴトン、と揺れる電車。その揺れが、隣から感じる月島君の体温が私の意識を少しずつ遠ざけていく。

電車を降りるその時まで。
月島君のぶっきらぼうな声に起こされるその時まで。

少しだけ、眠ろう。





甘い戯言なんていらない
(それよりもぶっきらぼうな君のやさしさが欲しい)