初めて彼女に会ったのは、今からちょうど一年前。真新しい学校指定ジャージに身を包んで、体育館の入口から中を覗きこんでいたその後ろ姿に声をかけたのが、すべての始まりだった。



「何してるの?」
「うわあああ!?」

第二体育館の入口から顔だけを覗かせて中を窺っている様子の彼女の背中に声をかけると、彼女の両肩がびくっ、と大きく跳ねた。おずおずとこちらを振り向いた彼女の顔は怯えているようにも見えて、そんなに驚かせてしまったかな、と内心で反省する。

「え、えと、あの、」

しどろもどろになっている彼女をじ、と見つめてみる。背は俺より十何センチか低い。160くらいかな、と勝手に予想してみる。髪は胸元くらいまである黒のストレート。きちんと手入れされているのだろう髪はさらさらで綺麗だ。
ちらりと体育館の中を窺うと、すでに来ている大地や旭がストレッチを始めている。
誰かに用があるのかな、と考えて恐らく一年生だろう彼女がここに知り合いがいるとは考えにくいか、とすぐに打ち消す。となると、

「あ、もしかして見学?」
「へっ!?」

マネージャー志望で、見学に来たとかだろうか。ここまで来たはいいけれど、入りにくくて躊躇していたとか。それだったら合点がいく。
しかし目の前の彼女はあわあわと慌てふためいている。

「あ、いや、あの、ちが、」
「あれ?違うの?」

膝を屈めて彼女と目線を合わせる。顔の近くで否定するように手を振った彼女の顔が、みるみるうちに赤く染まる。勢い良く顔ごと視線を外したかと思えば、ちらちらとこちらを見る彼女が何だか可愛くて、つい笑みが溢れる。

「ち、違わないです!」

そう言ってばっ、と差し出された、少し皺々になった紙を受け取る。入部届、と書かれた紙には、彼女の名前なのだろう、名字名前と綺麗な文字で書かれている。(ちなみにクラスは一年三組らしい。)しかし、その上の部活名欄に目を丸くした。

「これ、女子バレー部、って書いてあるけど?」

もしかして女バレに入るつもりで間違えてこっちに来ちゃった?、と聞くと彼女、名字はぶんぶんと首を左右に振った。

「ま、間違えてません!」
「いや、女バレに入るつもりなら、向こうの体育館まで案内するよ?」
「入りません!私ここの部活に入ります!」

入部届にははっきりと女子バレー部と書いてあるのに、何故か頑なに俺を見据えて首を振り続ける彼女に、ふと悪戯心がわく。

「じゃあ、ここが何部の活動場所か分かって言ってる?」
「えっ!?あ、え、えと、その、」

途端に彼女が再度あたふたし始める。慌てたようにきょろきょろと周囲を見渡しているあたり、本当に分かってないらしい。それなのにどうして拒むかな。素直に間違えたって言えばいいだけの話なのに。内心で首を傾げる。
ふと、おろおろしていた彼女の視線がある一点を見つめて止まる。体育館の中を必死に見つめている。しばらく睨むように見つめてから、彼女の顔が一瞬にしてぱっと綻ぶ。

「バレー部!男子バレー部だ!」

そうですよね!?、と俺を見上げる彼女に思わず吹き出す。どうやらジャージの背中を一生懸命見ていたらしい。気付かれてしまったことが少し面白くないような、もう少しだけ慌てふためく彼女を見ていたかったような名残惜しさを感じながらも、笑いながら正解、と答えると彼女はほっとした表情を見せた。

「もうすぐマネージャー来ると思うから、少し中で待ってて。来たら紹介するよ。」
「はい!」
「それから、これも。」

ちゃんと書き換えとけよー、と入部届を返しながら中へと誘導する。



女子バレー部に入るつもりだったのだろうに、どういう訳か男子バレー部のマネージャーを選んだ、表情のくるくる変わる何だか見てて楽しい女の子。

それが彼女、名字名前に対する俺の第一印象だった。





first impression
(出会いは少し不可解)