「あーあ、いいなあー。私が欲しかったなあ、靴下ー。」
お気に入りのクッションを胸に抱きかかえて、ごろごろと床に転がる。明日があると分かっているけれど、もう少しだけ一緒にいたい、と強請って部屋に上がってもらったスガさんはベッドにもたれて苦笑いを浮かべている。
「まだ言ってるの。」
「だってー、」
田中や西谷じゃあるまいし、と笑うスガさんは私の気持ちなど分かっていないのかもしれない。クリスマス会のプレゼント交換といえど、スガさんからの物が欲しいと思うのは、好きならば当然の心理じゃないのだろうか。潔子さんからのプレゼントが欲しいと、一緒に過ごしたかったという二人の気持ちは私にはよく分かる。それがどんな口実であれ、一緒にいられることが、スガさんが選んでくれた物をプレゼントしてもらえることが私にとっては最上の幸福なのだ。
それともスガさんは、そういう感覚を持ち合わせていないのだろうか。それとも、あくまで部活のプレゼント交換、と割り切っているのだろうか。スガさんのことだ、意外と後者に至っては可能性はありうるかもしれない。それはそれで何だか少し寂しいと思うのは、私の我儘だろうか。
「仕方ないな。」
仕方ない、なんて。そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。まるで私が子どもみたい。口を尖らせてスガさんを睨めば、そんなことは全く持って意に介さずにスガさんが、おいでおいでと小さく手招きする。素直に従うのは面白くないと思いつつも、もはや反射で動くようになった体は、上体を起こして招かれるままに、スガさんの元へと近付いていく。
「目、閉じて。」
何だろう。こんなタイミングでキスでもされるのだろうか。ドキドキしながら、スガさん限定で従順な体は言われた通りに目を閉じる。
ふわり、と鼻を掠める嗅ぎなれた大好きなスガさんの匂い。やっぱりちゅーするのかな。期待で心臓が高鳴る。だけど、どれほど待ち侘びても私が期待するスガさんの柔らかな唇は降りては来ない。代わり、とでも言うように、額にそっと唇が触れて目を開けるよう促される。
ゆるゆると閉じていた瞼を開けて、一番最初に視界に映ったのは、柔らかなスガさんの笑顔。うん、似合ってる、と微笑まれても、スガさんの言葉の意図が掴めない。首を傾げれば、スガさんが自分の首元をトントン、と指差す。その指に示された通りに、自らの首元に視線を落として指で触れてみる。
「…え、これ、」
見覚えのない華奢なネックレスに言葉を失う。ピンクゴールドの、少し力を込めれば簡単にぷつりと切れてしまいそうな金属のチェーンの先にぶらさがる小さな花のモチーフ。埋め込まれた石が、部屋の明かりに反射してキラキラ光る。
「俺からのクリスマスプレゼント。」
名字に似合うと思って。
にっこりと笑うスガさんの笑顔を呆然と見つめる。きっと今の私の顔は、口がぽかんと開いていて酷く間抜けに違いない。そんなことに構っていられない程に、ただただ驚くしか今の私は出来ない。
スガさんが、私に選んでくれた。何かを欲しいなんて言ったことないのに、スガさんが私のことを考えて選んでくれた。その事実がたまらなく嬉しい。じわじわとこみ上げる嬉しさと現実味に、頬が緩む。
「へへ、嬉しい。」
だらしなく緩む頬のまま呟けば、良かった、とスガさんがほっとしたように笑った。その首に喜びのまま抱きつく。
「わっ!?」
「すっごく嬉しいです!絶対大事にします!肌身離さずずっと付けてます!」
スガさん大好きです!と、ぐりぐりと額をスガさんの肩に押し付ける。くすぐったいって。そう言いながらも抱きしめ返してくれるスガさんに甘えるように、ぎゅう、と抱きつく腕に力を込める。
大好き。嬉しい。言いようのない温かな感情が体いっぱいに満たす。ああ、こういうのをきっと幸せというのだ。バレー部のことを考えて選ばれたクリスマス会のプレゼント交換用の靴下なんかよりも、私のことだけを考えて選んでくれたネックレスの方が比べ物にならないほど嬉しい。
仕方ないから、その靴下はくれてあげるよ。だけど、私の首に下がるこのネックレスは誰にもあげたりなんてしないんだから。
だって、スガさんが私のために選んでくれたんだもの。
ねえ、スガさん。私もスガさんのために選んだプレゼントがあるんです。
笑って受け取ってくれますか?
gift
(君のことを考えて選びました)
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