思い返すだけでアホらしい愚行の後、報告に行った学校では結局がっつり後輩たちに混じってバレーをしてきてしまった。久しぶりに思い切り体を動かしたせいで、新たにできた痣に加えて全身が鈍く重い。明日は久々に筋肉痛に喘ぐことになるかもしれない。
バレーで一暴れした足で保育園へ双子を迎えに行って、帰るなりシャワーを浴びて汗を流した。珍しく早く仕事から帰ってきた母に双子をバトンタッチして、少しでも早くスガさんに直接報告したいからと家を飛び出した。家を出る間際、遅くなったり泊まってくるようなら連絡しなさい、と悪戯な笑みを浮かべた母は、私の気持ちにも、しばらく会っていなかったことにも気付いていたのかもしれない。私を信頼してくれている上で、比較的自由にさせてくれる両親には感謝している。(母としては、お気に入りのスガさんと上手くいって欲しいという思いもあるようだけど。)

家から走って来たせいで少し前までは暑かったのに、今ではすっかり冷えてしまった。ぐるぐる巻きにしたマフラーに冷たい顔を埋める。

「まだかなあ。」

壁に背を預けてずるずるとその場にしゃがみこむ。呟いた息が白く濁って消えた。来てからどれくらい時間が経ったのだろう。ジーンズに包まれた膝が、ヒールのないエンジニアブーツの足先が冷たい。

会ったら何から話そう。何から伝えよう。ごめんなさい。会いたかったです。受かりました。好きです。どれも伝えたい。でも一度に全部は伝えられない。どれからにしようか。
…ああ、でも、もしかしたら帰ってこないかもしれない。今日は金曜日で、もしかしたらお仕事終わりでそのまま、何処かへ遊びに行ってしまったかもしれない。誰と?篠宮先生と?そうだったら嫌だなあ。そしたら朝まで帰って来ないのかな。朝まで待つのは辛いなあ。
でもスガさんは連絡待ってるって、そうメッセージをくれたし。あれ、私それに対して何か返したかな。待ってて下さいって、伝えたかな。何だか自信がなくなってきた。でももういいや。私がここで待っていたいんだ。何時までだって、何時間だって待っていたい。それからスガさんにちゃんと伝えたいんだ。

そんなことばかりをまるで無限ループのように、ぐるぐると考える。同じ思考がくるくると繰り返されるばかりで、ループから抜けられない。廻るループを抜ける糸口が、条件が見つからない。

ぐるぐる。くるくる。回り続ける。

「名前ちゃん!?」

どれくらいそうしていたのか。ずっと聞きたかった愛おしい声に、ぱっと顔を上げる。心配そうに眉を下げて走ってくるその姿を見て立ち上がる。

「どうしたの!?まさかずっとそこで待ってたんじゃないよね?」
「私スガさんが好きです。」

ああ、やっとループから抜けられた。私が一番伝えたかった言葉はこれだったんだ。

スガさん。一度でも嫌いだなんて言ってごめんなさい。嫌いになんてなれませんでした。私はずっとずっとスガさんが好きで追いつきたくて、少しでも近付きたくて、会えなかった、会わなかった時間を必死に走ってきました。私なりに悩んで考えて、何度も躓きながら、それでもその度に立ち上がってここまできました。

私、スガさんが大好きです。