「お疲れ様でーす。」

女子バレー部の練習を終えて、着替えもしないまま第二体育館へ顔を覗かせる。男子も終わった所のようで、自主錬を始めたり休憩したり思い思いに過ごしている。

「名字、お疲れ。」
「潔子さん今日も素敵ですー!!」

潔子さんと目が合うなり、彼女をぎゅうっと抱き締める。美人でスタイルのいい潔子さんの細い体は何度抱き締めても柔らかくていい匂いがするとか考える私は変態なのかな、とか時々思わなくもない。

「ああああーッ、名字てめぇ潔子さんに何してやがる!!」
「今すぐ潔子さんから離れろ、名前!!」
「嫌だね。羨ましいなら自分もやればいいじゃん。」

出来るもんならね、とぎゃあぎゃあと騒ぐ田中とノヤっさんに言ってやれば更に二人のボルテージが上がっていく。それを横目で見ながら、これが堂々出来るのは女同士の特権だよなぁと内心でほくそ笑む。

「名字、そろそろ離して。」
「もうちょっとだけ、充電させて下さい。」

ぎゅう、と抱き締める腕に少しだけ力をこめる。潔子さんが痛くないように加減をして。

「いつまで潔子さんに抱き着いてんだ、名字コラァ!!」
「今すぐ離れろ!!」

面白いからもう少し騒ぐ二人を見ていたいし、潔子さんにも抱き着いていたいけど、そろそろ離さないと怒られそうだ。潔子さんにも、…大地さんにも。というか正直大地さんに怒られるのが一番怖い。

「名字ー。」

引き際を見極めていると、大好きな声に名前を呼ばれてぴくりと体が反応する。これはもういつしか身についた条件反射の一種だと思う。スガさんの声を瞬時に聞分けて無条件で全神経がそこへと集中する。

「トス上げたるから、スパイク練するべー。」
「今すぐやります!」

潔子さんを抱き締めていた腕をぱっと解放して、スガさんの元へ駆け寄る。
後ろで田中とノヤっさんが潔子さんに何やら話しかけているけれど、そんなことはもうどうでもいい。私にとっては今目の前にいるスガさんが、私のためにトスを上げてくれる事の方が何よりも嬉しいのだ。

「じゃあやるべ。」

ニッと笑ったスガさんがその綺麗な手でトスを上げる。思い切り踏み切って、今ではもう慣れた、女子よりも高いネットの向こう側へとスパイクを打つ。

女子の練習が終わってから、こうして男子の練習に混ぜて貰うようになったのは半年程前。そのきっかけはスガさんとの接点を欲しがった愚かな下心だった。だけどその一方で、もっとバレーをやりたくてもっと上手くなりたくて疼く向上心を抑えられなくなった。一人で自主練するよりもずっと男子との基礎練は難しくて苦しいのに、だからこそ上達してくのが楽しくて仕方無かった。

「名字上手くなったよなぁ。」
「本当ですか!?」
「昔はネット越えるだけで一苦労だったのに。」

男子のが高いから仕方無いんたけど、と笑うスガさんの顔はあの頃と変わらず優しい。高いネットに阻まれて満足にスパイクを打てない私にスガさんは一度として嫌な顔をしたことは無い。何度も何度もトスを上げてくれたし、背中を押してくれた。「大丈夫」、「頑張れ」、「もう一回」。何度その言葉を貰っただろう。

「スガさんのおかげです。」
「俺は何もして無いよ。」

そう言って笑ったスガさんの笑顔に救われた回数だって数え切れない。

私はいつまでその笑顔の傍にいさせてもらえるのだろう。
あとどれくらいこうしていられるのだろう。




願わくは永遠に
(有限だと知っているから)