仙台駅のステンドグラス前。待ち合わせ場所のそこに着いたのは、待ち合わせ時間の15分前だった。辺りをきょろきょろ見渡してみても、スガせんせいはまだ来ていないようで、ほっと胸をなで下ろす。

スガせんせいからの嬉しいお誘いに応えられたのは、それから結局一ヶ月以上も経った六月半ばの日曜日の今日になってしまった。午前中は生憎練習があったので、大急ぎで帰ってシャワーを浴びて着替えて昼食を食べて。待たせてしまうのは申し訳ないからと、少し早めに家を出たけれど、早過ぎたかも、と腕時計を見て小さく息を吐いた。

緊張、している。男友達と遊びに行くなんてもう慣れた筈なのに、相手がスガせんせいというだけでこうも勝手が違うものなのか。…いや、そうじゃない。同年代の男友達とスガせんせいでは、全然違う。歳も、私の気持ちも。

「名前ちゃん!」

呼ばれて声のした方に顔を向けると、ひらひらと右手を振りながら走ってくるスガせんせいがいた。当然ながら見慣れたエプロン姿でもなければ、以前見たジャージ姿でもない、私服姿のスガせんせいに心臓が跳ねる。あ、ヤバイ。私服姿格好いい。

「ごめんね、待たせちゃったかな。」
「いえ、大丈夫です。」

そう答えながら、じ、とスガせんせいを見つめてしまう。私、今からこの人と一緒にいられるんだ。やっぱり私服姿格好いいなあ。出来るならずっと眺めていたいとさえ思う。

「え、と、何か変かな?」

スガせんせいに困ったように聞かれて、慌てて首を振った。変だなんてそんな、むしろ、

「カッコイイです!」

素直にそう言えば、今度はスガせんせいは照れたように笑った。あ、その笑顔も素敵だ。

「よかった。女子高生とデートなんて何着てけばいいのか迷っちゃってさ。」
「え、デート、ですか?」

思わず聞き返すと、あれ?違った?とスガせんせいが首を傾げた。ああ、もう、一々仕草が素敵すぎてときめきが止まらない。普段保育園で見せてくれる顔とも、前にバレーした時の顔ともまた違う顔。新しい表情、仕草を見る度にどんどん好きになっていくような気がする。

「ち、違わないです!むしろスミマセン、デートだっていうのに、私こんな格好で、」

否定してから、自分のあまりにいつも通り過ぎた格好を見下ろして項垂れた。白のカットソーにグレーのカーデ。ベージュのパンツにスニーカーって、どんだけ色気ない格好してるんだよ、自分。かといってスカートとかそんなものは持っていないし、どうしようもなかったと言えばそうなんだけど、もうちょっと足掻けよ。デートってちゃんと自覚しとけよ。女子力無いのは知ってたけど、分かってたけど、マジで女子力無さすぎだろ、自分。

「いやいや。名前ちゃんらしくて似合ってると思うよ。」

にこにこ笑ってそう言ってくれるスガせんせいは優しくて大人だ。もし次があるのならば、その時は頑張ってスカートとか着てみよう、と密かに決心する。いや、でもその前に服を買いに来るのが先か。

「じゃあ、何処行こうか?名前ちゃんは何したい?」

スガせんせいに顔を覗きこまれてはっとする。いかんいかん、今は折角スガせんせいと一緒にいるのに一人で考え込むなんて。

「えっと、何がいいですかね?」
「そーだなぁ、」

買い物とか映画見るとか、カラオケとか、あとはボウリングとか、とつらつらと並べてくれたスガせんせい。あ、ボウリングいいなぁ。やってみたい。面白そう。

「ボウリングがいいです!」

はい、と手を挙げて主張すると、スガせんせいがにっこり笑う。

「ん、じゃあボウリング行こう。」
「やった!」

スガせんせいの隣に並んで歩き出す。スガせんせいとデート。そう考えるだけでふわふわ、わくわく楽しみで仕方がない。隣を歩くスガせんせいも同じ気持ちだったらいいのに、なんて。そんなの贅沢すぎるだろうか。