いつもと変わらない昼休み。弁当を食べ終わるや否や、制服のブラウスを脱いでTシャツに着替える。男子がいるとかそんなことは気にしない。元々制服の下にキャミソールを着ているから、見られたってどうってことはない。胸だってほぼ無い同然だから、仮に見たところでメリットも何もないだろう。
中学からの腐れ縁、男子バスケ部の牧達と連れ立って体育館へと駆け出した。
牧らクラスの男子に混ざって昼休みいっぱい思い切りバスケをする。それが、いつからか当たり前になっていた私の昼休みの過ごし方だ。

「あ、スガさんだ。」

体育館へ向かう途中で、ふとスガさんを見つけて立ち止まる。良く見れば、オレンジ頭の見知らぬ男子とバレーをしている。

いいなぁ、スガさんと昼休みにバレーなんて。羨ましい。

「スガさーん!」

牧達にはとりあえず先に行ってもらうことにして、スガさんを呼んで手を振れば、にっこり笑顔で手を振り返してくれる。
その笑顔も仕草も変わらずたまらなく素敵で、一人でときめくのはもう何度目だろう。
緩みきった頬のまま、スガさんの元に駆け寄る。

「何してるんですか?」
「新しく入った1年の練習付き合ってるんだよ。」

その言葉に、バレーボールを両手で持って不思議そうにこちらを見ているオレンジ頭の男子を見やる。彼に近付いてみれば、思いのほか背が低いようで、身長174cmの私は自然とオレンジ頭を見下ろすことになった。

「あ、あの、」
「君かわいいねぇ。バレー部なんだ?ポジションどこ?てか、スガさんと昼休みも練習とかすごい羨ましいんだけど。いいなぁ、私も混ぜて欲し、って、ぅぐぇっ!?」
「名字、ストップ。」

いつの間にか私のすぐ後ろに立っていたスガさんに、Tシャツの後ろ首を思い切り引っ掴まれて、強制的に後ろへ引き離された。後ろ首を掴まれているせいで首がしまって苦しい。

「スガさん、くるし、」
「ほら、先に自己紹介。」

ぱっと手を離されて、自由になった喉で何回か深呼吸をする。オレンジ頭の彼はやっぱり不思議そうな顔でこちらを見ている。

「えーと、名字名前。2年女子バレー部です。よろしく。」
「えっ!?女の人!?」
「ぶっ、」

スガさんが後ろで吹き出したけれど、気にしない。男に間違われるのはよくあることだし、もう慣れてしまった。むしろ、初見で女だと分かった人はこれまでほとんど出会ったことがない。黒髪のベリーショートにこの身長、周り曰く中性的な顔立ちをしている以上、自分が女であると判別出来る要因は地声の高さくらいしか無いことも自覚している。

「よく間違われるんだけどね、ほら、スカート履いてるでしょ?」

そう言ってひらひらと短いスカートの裾を振ってみせる。

「あ、ホントだ!ス、スミマセン、俺、」

あわあわと謝る彼に、気にしないでと笑いかければ、ほっとした表情に変わった。

「あの、俺、日向翔陽です。よろしくお願いします!」
「ん、よろしく。」

がばっと頭を下げた日向に手を差し出して、握手を交わす。
本当にかわいいなぁ、なんてのほほんとしていると、笑い終えたスガさんに声をかけられた。

「名字、体育館行かなくていいのか?」
「あ、そうだった。」

このままうっかり忘れる所だった。ちらりと体育館の方を見遣れば、先に行った筈の牧がこちらを見て待っていた。

「じゃあ私行きますね。」
「おう。」
「練習終わったら今日も行きますねー!」

牧の元へと走りながらスガさんに手を振ると、さっき見つけた時と同じようにやっぱり手を振り返してくれたスガさんに性懲りもなくときめいてしまうのは、仕方無いと思うのだ。

トキメキの理由
(そんなの決まってる)