「あー…。」

机の上に顔を乗せてぼー、と外を眺める。机にぴったりくっついた右頬が冷たくて少し気持ちいい。気持ちいいくらいの晴天さえも今は恨めしい。

「名前、飯食わねぇの?」
「連休なんて来なければいいのに…。」
「は?」
「GWなんてなくなってしまえばいいんだよ。」
「お前何言ってんの?」

私の前の席にガタガタと座った智が呆れた声で、意味わかんねー、ぼやく。俺は楽しみだけどな、合宿あるし。そう言いながら智が弁当箱を開けたようで、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。

「連休中は保育園も休みだから嫌なんだろ。」

冷静に、だけど呆れ混じりの声で言ったのは、祐也だ。

「いい加減頭起こせ。飯食えねぇだろ。」

机あけろ、とぺしぺしと頭を叩かれる。仕方なしにのろのろと体を起こす。こんなに寂しくて苦しくても人間腹が空く生き物だ。

「あー、スガせんせいに会えないからか。」
「今日で最後とか耐えられない…。」
「たかが三日かそこらだろ。土日と大差ないじゃねぇか。」
「一日!二十四時間も違うんだよ!」

ガタン、と立ち上がって訴えるも、二人は私には目もくれずに黙々と弁当を食べている。ちくしょう。せめてどっちか構ってくれよ。もっと虚しくなるじゃないか。

「我慢しろよ、それくらい。」
「いいよねー、祐也は今日から四泊五日で彼女とお泊りだもんねー。」
「紛らわしい言い方すんな、名前。マネージャーだから一緒なだけだ。部屋も別だよ。」
「それでも毎日会えるだけいいじゃんー。羨ましいー。」

不貞腐れて祐也に噛み付けば、いいからさっさと食え、とまた頭を叩かれる。お腹も空いたし、これ以上祐也相手にケンカをふっかけても、相手にされないと諦めて、渋々椅子に座って弁当を取り出す。ふたを開けると美味しそうな匂いがして、無言でがっつく。こんな時でもごはんは美味しい。それが何だか余計虚しい。

「そっちも連休中はがっつり練習あるんだろ?」

祐也の言うそっち、というのは私が所属している女子バレー部のことだ。男子のように合宿は無いものの、朝から夕方まで休まず練習はある。

「連休中もこっち来るか?」
「お、来いよ、名前!」
「んー、そうだね、行こうかな。」
「先輩達には俺から言っとくよ。」
「助かる。」

週に一回、土曜の練習終わりに男バレの方へ行って自主練に混ぜてもらっている。単純にバレーを始めた時から、小学校、中学校と変わらずそうしてきたように祐也や智とバレーをしたい、という気持ちもあるし、女子はあまり自主練をしていく人がいない。一人で練習するよりは、祐也たちと練習する方がいい、ということで混ぜてもらっているのだ。練習は主にレシーブが多いけれど、時には男子と混じってミニゲームに参加させてもらうこともある。
連休中も来たらどうか、と二人は誘ってくれているのだ。

「ま、毎日バレーやってりゃ多少は寂しさも紛らせるだろ。」

宿題もあるしな、そう付け加えた祐也は少なからず私の気持ちを案じてくれているらしい。そういう優しい所は昔から変わらないなぁ、と一人笑みを零す。だから彼は女の子にモテるし、マネージャーという可愛い彼女もいるのだ。

「せめて今日は、明日から会えない分スガせんせいをこの目に焼き付けてこなければ…!」
「程々にしとけよ。」
「必死過ぎてせんせいに引かれるなよ。」

二人の忠告に耳も貸さず、私はスガせんせい充電に向けて意気込んでいた。

もうすぐ、連休が始まる。