「ねえ、菅原。」

いつものように背中合わせで寛ぐ菅原の背中に、体重を乗せてもたれかかってみる。倒れることなく私を支えたままで、ぱらり、と雑誌のページをめくる音が背中の向こうから聞こえる。学校からの帰り道に寄ったというコンビニで買ってきた雑誌を読んでいるのだろう。ついでと言って買ってきてくれた新発売のお菓子は既に食べ終えてしまった。

「そのままでいいから聞いて。」

緊張する。心臓の音がドクンドクンと耳元で煩い程に響く。体中が熱くて、触れ合う背中から緊張が菅原に伝わってしまうのではないかと不安になる。

「どうした?急に改まって。」

菅原が私を振り向く気配がする。だけど私は振り返ることなく、深呼吸を数回繰り返す。ゆっくりと息を吸って、吐いて、そうして少しでも速いリズムの鼓動を落ち着かせようとする。喉がからからに渇く。

「私ね、」

切り出した声は僅かに震えている。それでも言葉を紡ぐことを止めるつもりはない。

「菅原が好きだよ。」
「え?」
「澤村が好きなんて本当は嘘。菅原に好きな人いること聞いて、動揺して咄嗟に嘘ついちゃったの。」

ごめん。呟いてみても、菅原は何も言わない。菅原は今どんな気持ちなんだろう。どんな顔をしているのだろう。困った顔をしてるのかな。戸惑っているのかな。それとも驚いているだろうか。嘘をついていたことを怒っているのかもしれない。
背中合わせじゃ顔が見えないから、私には何も分からない。

「ずっと嘘ついててごめん。失恋したばかりなのにごめん。でも好きだって伝えたかったの。私の気持ち知って欲しくなったの。」

自分勝手な言い分だとは分かっている。あまりに勝手で一方的だと。それでももう嘘をつき続けることに耐えられなかった。自分でまいた種とはいえ、もう嘘をつくことで傷つきたくなかった。

「今すぐ応えてなんて言わない。だけど、私が菅原のこと好きだってことは知っていて。」

菅原に預けていた背中を離して立ち上がる。ぐぐ、と体を伸ばせば、言いたいことは言い切ったからか、すっきりとして気持ちがいい。

「お茶とってくるね。」
「名字。」

にっこりと菅原に笑いかけると、名前を呼ばれた。私を見上げる菅原の顔は困ったように眉が下がっていて、やっぱり困らせてしまったかなと伝えてしまったことを少しだけ後悔する。

「ごめん。でも、考えさせて。」
「うん。待ってる。」

だからゆっくり考えて。

微笑んで部屋を出る。
ゆっくり考えてくれたらいい。ただの幼馴染みじゃなくて、一人の女子として意識してくれたらいい。そうして同じ気持ちになってくれたら。なんて奇跡が起きるかどうかなんて分からないけれど、今はその奇跡を信じてみたい。

ねえ。ずっと嘘ついてきたけど、今日の私の言葉に嘘は無いんだって、信じてくれるかな。


嘘はもういらない
(今日で終わりにしよう)