「聞いたわよ。」
「…相変わらず耳がお早いことで。」

昼休みになるとすぐに口を開いた理沙とは目を合わせずに、今朝コンビニで買ってきたパンにかじりつく。いつもは自分で作るお弁当は、今日は作る余裕なんてなかった。それどころか教室へ着いた時には遅刻ギリギリで、泣き腫らした目を冷やしてくるので精一杯だった。

「名前にしてはよく頑張ったじゃない。」
「それはどうも。」

褒められたって何となく嬉しくない。私のやり方は決して綺麗でもなければ、格好よくもなかった。むしろ不格好で、あまりにも不器用だったと思う。その上、その結果は望んだものではなかったし、菅原に全て聞かれてしまったという点では最悪だった。あの場に菅原がいなければ、あんな酷い台詞を聞かずに済んだかもしれないのに。もっとやさしい言葉で、終われたのかもしれないのに。
ああ、でも、残酷な言葉でばっさりふられるのと、やさしい言葉でやんわりふられるのとでは、どちらがいいんだろう。どちらがより傷つかずにすむのだろう。

「その頑張りついでに、告白しちゃえば?」
「えッ!?」

告白。その言葉に驚いて理沙の顔を凝視する。彼女は表情一つ変えずに、黙々とお弁当を食べている。

「無理だよ。それに今言ったら弱みに付け入るみたいじゃん。」

そんなことしたくない、と呟けば、至って平静だった理沙の眉が釣り上がった。その表情に、怒らせたと気が付いて肩を竦める。

「あのさあ、弱みに付け入って何が悪いの。好きだって言うことの何が悪いのよ。」
「それは、」
「結局自分が傷付くのが怖いんでしょ。綺麗事並べて、自分を守ってるのよ。」

返す言葉がない。振り翳された正論に立ち向かえる術も言葉も、私にはない。彼女の言う通りだ。傷付けたくないと言いながら、本当は自分が傷付けられるのが怖いのだ。最初から、菅原に片思いを打ち明けられたその時から、ずっと私は自分が傷つきたくなくて、菅原を守るふりをして私を守っていたのだ。だから嘘をついた。

「…ごめん。言い過ぎた。」

俯いて頭を振った。理沙は間違っていない。私と彼女の間には沈黙が広がって、ざわつく教室内で私達だけが取り残されたような錯覚に陥る。

「言ったらどうなるのかな。」

好きだと伝えたらどうなるのだろう。やっぱりふられてしまうのだろうか。幼馴染みでさえいられなくなるのだろうか。それは、想像しただけで辛い。

「それは分からないけれど。」

でも菅原なら悪いようにはしないんじゃないかな。ぽつりと聞こえた彼女の言葉に、そうだったらいいと思う。本当の私の気持ちを知っても、変わらないままでいてくれたならいい。その大きな背中を私に預けて笑ってくれたらいい。

今のままでいい、なんてそれこそ嘘だ。何も欲しくないなんて、嘘。だって私は大きな背中を預けてほしくて、隣で笑ってほしくて、あの大きくて温かなやさしい手にまた触れられたいのだ。こんなにも欲しがっているのに、どうして何も欲しくないなんて嘘がつけたんだろう。

一度認めた正直な感情は何処までも貪欲で、だから好きだと伝えるのかもしれない。負け戦とか、傷付くとか、問題はそこではなくて、欲しいと願うから手を伸ばす。ただそれだけのことなのかもしれない。



嘘は僕自身をも誤魔化した
(やっと気付いた)