かくれんぼ



「ティム……?」

 名前を呼べば、肯定だと言うようにパタパタと羽を動かす。――おかしい、この子は何時もあの子の側に居たはずではないか。容易にバラバラになってしまう筈がない。なら、どうして。考えているとティムキャンピーはにっ、と歯を出して笑い、リナリーの肩に乗った。

「どう、したの? アレン君は」
「あ、ちょっと待って」
「ミランダ?」
「ほら、ここ」

 ミランダの指の指す場所――ティムキャンピーの左羽の先の方――には、紙が一枚くくりつけられていた。

「もしかしたら、手紙か何かじゃ……」
「ティム、それちょうだい?」

 肯定したいのか、ティムはコクリと全身を縦に振った。それから左羽をリナリーの手元の辺りまで持っていく。取りやすいように配慮されていたのか、それほど強く結ばれていなかった。シュルリと軽く掠れた音がした。もしかしたら、もしかして。

「…やっぱり、アレン君からね」

 縦長になるように幾重にも折り重ねられている。急いで開いた。『ティムが録画している動画を見てくださいね、出来ればみんなで』丁寧に書き綴られたそれの一番最後には、アレンという名前がつづられていた。もしかしたら、何かが分かるかもしれない。明確になった期待を胸に、リナリーは提案する。

「取り合えず、クロウリー達と見てみましょうか」

 無言でミランダはうなづいた。これが、絶望への入り口で無いことを祈りながら。


***


 先のことを話すと、クロウリーとブックマンは驚いたように確認をしてきた。左腕は、ペンタクルは、本当に彼はアレン・ウォーカーだったのか。私は全てを肯定して、続けた。彼は確かにアレン・ウォーカーだった。だけれど、彼は。

「性格も、容姿もそのまま、だったわ。だけれど、ノアと普通に話してた。力だって使って、そう、まるで自分はノアになったって示してるみたいに」

 言い知れぬ重い空気が辺りを支配した。ミランダが思い出したようにメッセージのことを話す。メッセージ? ブックマンがいぶかしげにこちらを見た。そう、メッセージよ。彼が私たちに残してくれた、(多分)最後の手がかり。

「だから、みんなで見ようって二人で話していたの」

 無言は肯定。ティムはゆっくりと動画を再生する準備を始めた。時間がゆっくり流れる。真っ暗な画面がティムの上に――まるでティムが吐き出しているかのように口から――現れた。ジ、と古めかしいような音がして、その動画は始まった。


『えーっと、こんにちは、アレンです。
 取り合えず、いきなりノアのところへ行ったりしてごめんなさい。殴られたり蹴られたりする覚悟は出来てる。あ、斬られるのは勘弁だけど。
 ――ラビと神田は最初、僕が拐われた時何が何だか分からなかったと思う。まあ、僕も何がなんだかわかんなかったわけなんだけれど、あ、それはどうでもいいのか。じゃなくて、きっとみんな、自分自身を責めてると思う。僕がみんなの立場だったら、きっとそうだから。でもね、それは違うんだ。みんなが自分自身を責める必要はない。それだけははっきり言える。これは、僕自身の問題であって、みんなの問題じゃない。だから、気にしないで。

 それから、僕の能力。なんだけど、この動画を見てるってことは、多分僕と出会ったってことだろうから、知ってるよね。
 ――でも、僕はエクソシストを殺さない。だって、僕の大切な家族だもの。まあ、立場的な問題上、殺さないってだけだから、傷つけることはするかもしれない。だから、もし、いつか僕と対峙することがあったならば、本気で……ってなる前に逃げるつもりだけど。

 あと、もうひとつ。必ず、この戦争は終わらせてみせるよ。みんなが、僕の家族みんなが幸せに、暮らせるようにね。勘違いしないでね、僕が家族と称するのはホームのみんなだけだから。

 今はまだ全てを話せない。けど、時が来たらちゃんと全てを話すつもりだよ。いや、僕が話すその前に知ってしまうかもしれないね。ああ、ひとつだけ教えてあげる。この戦争は、とっても陳腐で、くだらない。

 このくらいかな。うん。じゃあ、次に会うときまで、さよなら。


 ああ、ちょっと長くなっちゃったかな。ティム、録画切っていいよー』


 プツ、とこれまた古めかしい音を立てて動画は途切れた。思わず張り詰めていた息がこぼれる。ティムに動画はこれだけなのか確認をとる。体を前後にふったので、これも肯定ととっていいのだろう。と、ミランダが言葉をこぼした。

「アレン君のこと、信じていいのよね」
「うん。アレン君は嘘なんて、つかないよ。信じよう?」
「このメモリーについては、儂が室長に電話で伝えておく。ティム、間違ってもそのメモリーは消すなよ」

 ティムはまた体を前後に揺らした。外は夕日で真っ赤に燃え上がっていた。ゆっくりと暗くなっていく景色は、これから先を示しているようで、なんだか嫌になってしまう。そんなこと、ないよ。自分自身に言い訳をして、私はカーテンを閉じた。






期待と不安が奏でる不協和音


「期待」
心の中で待ち受けること。
「不安」
どうなるかと心配して。おちつかない様子。

三省堂国語辞典より引用