扉を開けばもう戻れない




「もう少し、待っててって。」

 あれから、会場まで行ったはいいが、少し早かったらしい。追い出されてしまった。仕方がないので、分け与えられた部屋で時間を潰すことにする(先ほどまでアレンが寝ていた部屋だ。どうやら、アレンの部屋まで用意されていたらしい)先ほどのジャケットは丁寧にハンガーにかけられ部屋の片隅にある。

(こんなに馴染んでいていいんだろうか)

 はたとアレンは考えに耽り出した。

(いくら僕がこちらに着くといったって、みんなには言ってない訳だし。きっと、みんなは僕をさがしてくれてる。僕はここにいていいんだろうか)

 あの時のように答えを返してくれるひともいるはずが無く、考えは水の波紋のように広がって消えていった。
 モゾリとアレンが寝転んでいるベットの片隅にあった(今見つけた)が動き始めた。何だろうか、呑気に考えていればそれはシーツの中から出てきた。丸く、金色で羽のあるアレ――と言えば分かるだろう。ティムキャンピーだ。

「ティム?」

 聞けば嬉しそうにハタハタと羽を動かしてアレンの方にぐりぐりと体を押し付ける。ふと、ひとつの考えが脳内を駆け抜けた。そうだ、とアレンは呟いた。善は急げ、なんていうくらいだから、思い立ったらすぐ行動だ。


***


 コンコンと軽いノック音がしてから声が聞こえた。

「アレーン。準備できたってさぁー」
「あ、はい。わかりました」
「急いでよぉー?」
「ちょっと待ってください……っと」

 ドアを開ければめかし込んだロードが見えた。スカート部分に控え目にフリルがあしらわれ、首元はV字型に大きく開いた半袖のワンピース。所々うっすらと薔薇の模様が刺繍されている。そんなワンピースの下からはこれまた黒の襟付きのシャツが覗いている。下から上まで全体を黒で纏めたある種ロードらしいドレスだ。

「おぉ、アレンイケメンー」
「ロードも、可愛いですよ」

 言えばロードは悪戯っぽくくるりとその場で一回転してみせ、少しだけ頬を赤らめて「へへへ、ありがと。」と礼を言った。

「じゃあ、行きましょうか。」

 軽くロードの手をひくと彼女は呆れ顔で笑いながら言う

「アレン、逆だよ、逆」
「え、嘘」
「こっちだよ。ほら」

 と、軽く手を引かれる。今度はアレンが顔を赤らめる番のようだ。ぐいぐいと少女とは思えないような強い力で先ほど追い返されてしまったダイニングへと連れていかれ――

「開けてみて?」
「え?」
「だって今日はアレンが主役なんだよぉ?」

 主役は目立たないと、ね。と今度はいかにも少女のような笑顔を浮かべ、アレンを扉の前まで押し出す。

「いいの?」
「ノックとかいいからさぁ、ほら!みんな待ってるって」
「…うん」

 ゆっくりと取っ手に手を伸ばす。目の前にある重厚な扉を少しだけアレンは拒んだように見えた。が、気のせいだっのか彼は、普通、に扉を開いた――と同時にいくつかのクラッカーの音と「わぁっ」という歓声。目の前に写ったのはノアの一族が大きなテーブルを囲んで立っている図。呆気に取られているうちにロードが手をひいてアレンをテーブルまで連れていく。

「ほい、」

 と、ティキがアレンに向けて何かを投げた「へっ、わ、わ、」とアレンは少し、焦りながら受けとった。彼が受け取ったものを見ると、綺麗なグラスだった。少し水色を被せたベースに、薔薇の模様――いかにも、高そうなグラス。それを軽く投げるティキの気が知れない。

「アレン、今日はアレンの歓迎会なんだよ」

 しばらくグラスを眺めていると、不信に思ったのか、ロードが声をかけてきた。

「えぇ…、そう、でしたね」
「なのデ、今日は貴方が気を使う必要は皆無でスv」
「わ、伯爵!?」
「あ、千年公ー。遅いじゃんかぁ」

 ぷう、と軽く頬を膨らませてロードは唐突に現れた伯爵に反抗の意をしめす。アレンの方は驚いて、それどころでは無さそうだったが。

「さア、始めましョウカv」


始まりました。


「で、気分は?」
「…上々、ですかね」
「じゃ、料理は?」
「 最高です 」