※出雲パロ



目の前の見目麗しい美女は嬉しそうにパフェを頬張る。その一連の動作は誰もが見慣れた筈のものなのに、どこか一つ一つゆったりと。しかし無駄無く洗練された動きは美女の品格を上げると同時に教養があることを知らせる。まるで絵に描いたようなその様子は思わず通り掛かった男達の視線を奪う程優美であった。けれど、そんな美女の真向かいに腰掛ける風丸は、男達が思わず羨ましがる位置にいるというのに心底複雑そうに表情を歪めている。そんな風丸の様子に美女は小首を傾げ、綺麗だが愛らしい様を見せた。しかし、微笑むその表情は風丸の言わんとしていることを察しているとでも言いたげなものだ。だからなのか。風丸は先程よりも表情を歪ませるとこれ見よがしに深く長い溜息を吐いた。
「そんな表情してたら折角の美貌が台無しだよ?」
風丸の溜息など何のその。女性にしてはやや低め(とは言え違和感はないが。)な声色で告げた。然り気無く男前ではなく美貌という言葉を選ぶ辺り、美女も中々に言う人物のようだ。何せ風丸は男にしては綺麗であるし、どちらかと言えば線は細い。それに何より後ろで高い位置に括られた長い髪は異性でさえ羨むのではないかと思うほどさらりとしている。恐らく手触りも良いのだろう。服装も幸か不幸か男女共に着こなしても違和感のないもので、一見すると女に見えなくもない。そんな言葉の含みに気付いたのか、風丸は眉間に皺を寄せ。しかし賢明にも何も言わず目の前のコーヒーを口にすることで言葉を呑み込んだ。
そんな風丸の反応に肩を竦めてみせると美女はそれ以上何も言わずにパフェを食べるのに専念する。
どこか羨ましい筈のもので。出来うるならば美女のお近づきになりたいとは思う人間は少なくない筈なのに。二人の出す温度差というべきか。なんとも近寄り難い雰囲気に皆、見とれることこそあれど誰一人近寄ろうとはしない。誰もが遠目で二人を見ている中、なんとも陽気な声が響いた。まるで二人の醸し出す雰囲気に気付いていないとでもいうその場違いな声に、一斉に視線が向く。しかしその視線など気にならないのか。声の主は更に声を上げ、しかも注目されている二人へと真っ直ぐ進む。いつの間にかギャラリーになった通行人達は固唾を飲んで見守った。
そんなギャラリーなど気にも留めず、声に聞き覚えがあるのか。美女と風丸は互いに声のする方へと首を向けて円堂と名前を呼んだ。先程の微妙な空気は何処へやら。二人は柔らかく。甘さの含んだ声で、表情で、円堂を迎えた。見ている此方が赤くなってしまうようなその様子に、当の本人だけ気付いていないのか。全く態度を変えることなく元気よく手を振ってみせた。
「風丸!フィディオも一緒だったのか…ってフィディオ?」
フィディオと呼ばれた美女はいつの間に立ち上がったのか。優雅な仕草で円堂へ抱き着く…というよりは身長差的に抱き締めると慣れた様子で瞼へ唇を落とした。
「わ、フィディオ…」
「ごめん、嬉しくてつい。嫌だった?」
「嫌とかの前に照れくさいかな」
良くあることなのか。それとも鈍感なのか。美女からの口付けに照れくさそうに頬を掻くだけで、円堂は慣れた様子でフィディオの抱擁を解いた。そんな二人を見ていた風丸は僅かに顔をしかめるとあからさまに二人の間に割って入ると抱えていたらしい荷物を然り気無く円堂から奪うと親しい人間にしか見せない柔らかな笑みを見せた。
「お疲れ。お使いはこれで終わりか?」
「おう!後は帰るだけだぜ。付き合わせてごめんな?」
「気にするな」
そう言って空いた手で円堂の頭を撫でる姿は兄や親のようである。しかし、円堂へ向ける笑みや雰囲気は他の何かを含んでいるかのようで。微笑ましいような、何か違和感というか疑問が残るような。そんなやりとりをする三人を通行人達は首を傾げながらその一部始終を見ていたのだった。







彼らのよくある日常








(果たして通行人には誰が男と見られているのやら)






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