※学パロ



目の前には数式が記載された一枚のプリント。空欄ばかりのそれにロイドは溜め息と共に机に突っ伏した。
「わっかんねぇ」
身体や手作業以外は苦手としているロイドは机の上でする勉学が苦手だ。いや、頭の回転自体は良いので本人のやる気次第といえばそうなのだが、苦手意識が強い勉学にやる気などないに等しいだろう。プリントを手渡されてから三十分も経つが未だ空欄ばかりというのがその最もたる例とも言る。
悲しいことに帰りたくともこの空欄を埋めるまでは帰宅は許されないし、誰かに教えを請おうにも放課後の教室にはロイド一人のみ。この様子では他のクラスに生徒がいるかどうかも怪しい。八方塞がりな状況をどう打破するかと悩んでいると、突然図上から声がした。先程まで誰もいなかった為、突如聞こえた声に驚いたロイドは勢い良く顔を上げようとして、ガキッと鈍い音と共にやってくる痛みに声を漏らした。
「ってぇ」
「あたたた…んでいきなり顔上げるかな」
痛みに耐え、謝罪しながら視線を上に上げると目の前の人物は赤みがかった顎を擦り「俺様の折角の美貌が…とほほ」とぼやいている。察するに顔を上げようとしたロイドの頭と見下ろしていた相手の顎が衝突したのだろう。ロイドは衝突した相手が誰だか知ると呆れた口調でゼロスと相手の名前を口にした。まるで鬱陶しとでもいうようなロイドの態度に大袈裟に傷付いたとリアクションしてみせるがそれに対し軽くあしらうというロイドの素っ気ない態度に肩を竦めてみせると前の席の椅子を動かし、向かい合うように腰かける。
いつの間にか空欄を埋める作業を再開したらしく恨めしげにプリントを睨み付け唸るロイドを暫し眺めていたゼロスだが、ただ黙っているのにも飽きたのか。ゼロスはわかっていて敢えて何をしているのか尋ねた。
「何って…補習。見りゃわかるだろ」
「まあな。ところで全然埋まってねぇんだけど…」
「しょーがねぇだろ、苦手なんだから」
「苦手ねぇ。良かった教えてやろーか」
一向に埋められる気配のない真っ白な空欄ばかりのプリントに見兼ねた、と言うよりは手持ち無沙汰で暇を持て囃していたゼロスは一つの提案をする。願ってもない申し出にロイドは表情を明るくし二つ返事でお願いすると、早速と言わんばかりに問題を指した。そんな様子にわざとらしく溜息を吐くゼロスだが満更でもないのか、わかりやすく噛み砕いて一つ一つ説明していった。
教師も教えるのが下手と言うわけではないのだろうが、ゼロスの懇切丁寧な教えはロイドにとってとても理解しやすいものである。何せ些細な疑問や不可解な点を問えば前より更にわかりやすく説明するのだ。成績が壊滅的とも言えるロイドでも空欄を埋めれる程だからゼロスはロイドが思っているよりずっと頭が良いのだろう。
ロイドはふと、ノートの端に説明しながら記号を書くゼロスを何気無しに見つめた。整った顔、切れ長の目、長い睫毛に真紅の綺麗な髪。スタイルも申し分ないし、勉学どころかつい最近見た体育時の無駄のない動きからスポーツも出来るのだろう。これなら女子が放って置かない筈である。同じ男ですら笑い方を除いて思わずカッコイイと思ってしまうのだから。しかも生徒会会長なんてものまでやっている。パーフェクトかはわからないがここまで出来るのは正直凄いことだと内心思った。それに比べてロイドと言えば良くも悪くも取分け容姿に何かあるわけではない。勉学など身体を動かすなり手作業以外は壊滅的であるし、取り柄など運動くらいなものだろう。(と、本人は思っている。実際はそれだけではないが。)
性格も正反対と言えるし、年も一つとはいえ違う。全く接点などないであろうに、それでもゼロスは時折こうしてロイドの元へとやって来るのだ。ゼロスなら他人がほっとかないであろうし、わざわざロイドと会わなくとも支障はない筈だ。それなのに、どうしてこうもふらりとやって来ては時折助けてくれたり構うのだろうか。内心首を傾げているとゼロスが突然ロイドを呼んだ。その呼び掛けに自分が考えに耽っていたのに気付き慌てて返事を返せば呆れた様子のゼロスと目が合った。まあ、ロイドから見つめていたので、ただ単にゼロスの視線がロイドへ行ったことに気付かなかっただけとも言えるが。
「やっぱり聞いてなかったか。ったく、誰の為にやってんだかねぇ」
「う、ごめん…」
「いーって。俺様が美し過ぎるのがいけなかったんだろうし?ロイドくんが見とれちゃうのも無理ないか」
「別に見とれてたわけじゃ…なぁ、ゼロス」
俺様って罪な男!などとおどけてみせるゼロスにロイドは思わず口を開いた。どうして俺に構うのかと。そう口にした途端思いもしない質問だったのか、ゼロスは目を丸くするだけで何も言わない。いや、咄嗟のことに言葉が出ないと言うべきなのだろうか。ロイドはゼロスのそんな様子を気に留めることなく言葉を続ける。
「だってさ、別に俺んとこ来なくたって困んないだろ?学年だって違うし。ほら、彼女?とか作って遊ぶほうが楽しいんじゃないか?まあ、俺んとこには暇潰しでなんだろうけど、ゼロスなら友達とか多そうだし」
「え?それマジで言ってんの?」
何故かロイドの言葉に傷付いたとでも言うかのように深く息を吐くゼロスに意味がわからず怪訝そうな表情を浮かべた。ゼロスの言わんとすることなどさっぱりなロイドにとっては正直な気持ちを伝えたまでなのだが。些か恨めしげな視線を寄越すゼロスに困惑するしかない。本気でわかっていないという様子に肩を落とすと普段のふざけた態度を微塵も見せない真摯な視線で真っ直ぐロイドを見据えた。
「俺が暇潰しでヤローのとこへわざわざ足を運ぶと思うか?」
「思わないかな」
「じゃあなんでわざわざロイドに会いに行く?」
「……暇潰し?」
「おっまえなぁ」
片手で顔を覆い嘆くゼロスに疑問ばかりが浮かぶ。全く答えを教えてくれようともせずまるでお前が悪いと避難されているかのようで、苛立ったロイドは、じゃあなんだよ!と声を荒げていた。その苛立ちが伝染したのかゼロスはロイドに負けじと声を張り上げた。
「お前が好きだからだよ!」
バンッと机を叩き立ち上がったゼロスは口をあんぐりと開け呆けた様子で見つめるロイドにしまったと口元を覆った。苦虫を噛み潰した表情をしながらもどこか赤い頬に本音だと気付く。そんなゼロスの告白を不快に感じるどころかつられて照れると視線を游がせた。暫く互いに口を閉ざし気まずい雰囲気が流れるもロイドが先に口を開いた。
「…なんでそうなるんだよ」
「俺様だって知らねぇよ…」
お前なら選びたい放題だろうと語るロイドにゼロスは答える。それに不満なのか納得がいかないのか口を尖らせぼやく。ロイドとしては全く真逆で多分、ゼロスからしたら反りが合うとは言い難い自分が好かれるということが不可解なのだろう。それに気付いたゼロスは少し困ったように、どこか照れくさそうに呟いた。
「お前が一々気付くからだろ」
「何に」
「自分で考えろっての。あーあ、もっとそれらしく言うつもりだったってのに台無し」
天を仰いでぼやくと開き直ったのか、常のように掴み所の無い笑みを見せると優雅な席を立ち教室の入口へと足を向けた。ロイドの呼び掛けに振り返ることなく「ちゃんと答え用意しとけよ」と片手をひらひらと振り去っていった。そんなゼロスを見送ることになったロイドは少し熱を持った頬を冷やすかのよう机にくっ付ける。
「用意しとけって何をだよ…」
ゼロスの言う答えはわかっている。しかし予想だにしないことであったし、全くもってそのような方面になど考えたことのないロイドにとっては目の前のプリントよりも難しい気がした。





アンバランスな僕ら






だからこそ惹かれるのかしら。






-----
ハニートラップ様へ提出させて頂きました。
素敵な企画有難うございます。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -