入学してから一週間。それなりに学校生活に慣れたころ、教室移動の為同じクラスになった吹雪と会話しながら廊下を歩いていたら突然大声で名前を呼ばれた。声からして誰だか知るといつものことながら落ち着きのないと言うべきか、一応高校生になったのだからとか、仮にも女なのだからもう少しおしとやかにしろとか思ってしまう。注意すべく深く溜息を吐きながら振り返った。
「あの、な………」
元気よく手を振りながら此方に駆けてくる幼馴染みであり、生物学上女である円堂を視界に捕らえた瞬間、思わぬ出来事に言葉を無くした。なんだ、あれは。
此方へ駆けてくる幼馴染みはブレザー姿。いや、制服はブレザーなので当たり前なのだが問題は下だ。本来女生徒はスカート姿であろう。なのに円堂ときたらズボンなのだ。しかも制服に合わせてご丁寧に肩ほどあった柔らかな髪はバッサリと切られてしまっているではないか。どこからどう見ても男子学生の姿なのである。
「うわぁ…思い切ったことしたんだね」
そんな円堂に感心からなのか。のんびりとした吹雪の言葉に我に返ると高校では慎ましやかに、せめて冷静に物事を考えようとかそういった密かな目標は円堂を大声で叱りつけるという行為で脆くも崩れさってしまった。今度豪炎寺や鬼道に冷静とは何かを学ぼう。頭の片隅でそんなことを考えながら、やって来た円堂に格好について注意した。それはもう鬼気迫る勢いで。しかし当の円堂ときたら俺の反応が気に入らないのか頬を膨らませ「似合ってるからいいだろ」と口にする。似合う似合わないの問題かそれは。
「お前な!女が男の制服着てどうするんだっ」
「ええ?でも制服ってだけで女が男の制服着ちゃいけないなんてルールはないぜ?」
普段の円堂らしからぬ屁理屈に疑問が沸き起こるも、取り敢えず着替えるよう促す。やはりスカートは持ってきてはいるようで問題をぶつくさ言いながらも渋々頷いた。全く。高校生にもなってこれでは先が思いやられる気分だ。何はともあれ、目的を果たせたことに内心一息吐いていると、それまでやり取りを傍観していた吹雪が口を開いた。
「ねぇ、思ったんだけど…その、胸、どうしたの?」
些か言いにくそうに円堂の胸元に視線を向ける吹雪に円堂と二人で首を傾げる。すると伝わらなかったと知った吹雪は小さく唸ると躊躇いがちに円堂と俺へ視線を向けた後、呟いた。
「ほら、キャプテンって、その…大きいじゃない?」
吹雪のその言葉で理解した。長年一緒に居た所為で忘れがち(というか、あまりの円堂の男らしい性格と行動から異性であるということを失念しがちなのだが。)だが、円堂は発育が良い。多分、同性に羨ましく思われる程だから良すぎるのだろう。そんな円堂は今、平らなのだ。平らというには少々語弊があるかも知れない。なんというか、そこそこ立派な胸板がある、といった感じだ。そんな円堂に態々そういう類いの下着でもしているのだろうかと考えていたら本人の口からとんでもない事実が明らかにされた。
「ああ、サラシ巻いてるんだよ。これヒロトに手伝ってもらったんだけど、もー大変でさぁ」
息苦しいし、痛いしで最悪なんだぜ。なんて暢気に話す円堂に俺と吹雪は言葉を失った。今、なんといった?サラシ?ヒロト?これは俺の勘違いなのだろうか。一人ぐるぐると考えていたらいち早く復活した吹雪が若干頬を引きつらせながら円堂に尋ねた。
「あの、さ。サラシって下着付けたまましたんだよね、勿論」
「え?付けたじゃ出来ないだろ?」
その言葉に、もうすぐ授業だというのに俺は手にしていた荷物を吹雪に押し付けると円堂のクラスへと殴り込みに行った。







腕時計も立派な武器









(基山貴様ぁぁぁああああッッ!!)

(??風丸どうしたんだ?)
(…どうしたんだろうね。ところでズボンって基山くんの?)
(おう!アイツ優しいんだぜ!貸してたんだ)
(うん…そっか)







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