「小向殿!」
「え、あ…真田さん!こんにちは」
「こんにちはでござる!!」
仄かに香る優しく甘い香りに思わず俺の頭がそちらに向いた。
そして見つけたのは俺よりずっと小さくて、最近佐助が気にしていた女子−−小向殿であった。
この女子は龍の幼なじみであり、何よりも龍が寵愛する少女。
多分、それはこれは変わらない事実だと俺は思う。
しかし、近づけば近づく程に小向殿が小さく見える。
何となくではあったが、小向殿を小動物のようだという佐助の気持ちが分かってしまう。
「本日は一体…」
「今日は先日お世話になった片倉先生にクッキーを届けに来たんです」
「クッキーでござるか!?」
「あ、はい」
思わず甘味の名前に俺は声を荒げてしまう。
うおぉ…!さすがに今のは恥ずかしかったでござる。
そう思うとあまり小向殿の顔を直視することなどできなく、…考えてみれば以前の俺ならば女子とこのような会話をしていることさえなかっただろう。
俺は昔から無類の甘味好きだった。
しかし、いつの間にか甘味好きが恥ずかしくも思った。
俺は顔がいいのかいつも女子に見られていた。
そして、俺が甘味を食べていれば必ず『可愛い』やら『子供みたい』と女子に言われ続けた。
いつしかその言葉を聞きたくない為に甘味を食べるのをやめていた。
まぁ、中学に皆と会ってからはあの中では食べていたが…。
そんなことを考えると、もし小向殿が俺に対してそう思っていたらと考えてしまう。
小向殿は本当に上辺だけで見る方ではない。
しかし、そう思っているかもしれない。
悪い方へ、悪い方へとしか思考が働かない俺が本当に嫌だ。
「いや、そ、その…!」
「真田さんクッキーお好きなんですか?」
「そ、そんなことは…!」
「あ…じゃあ真田さんにはなくても大丈夫ですか?」
「え、」
「クッキー」
「! 必要でござるうぅうぅ!!」
「ふふ、好きなら好きって言っていただければいいのに」
「む!小向殿もしや…」
「すいません、嵌めちゃいました」
「酷いでござるよ小向殿!」
はにかみながらも、本当に申し訳なさそうに謝る小向殿を見て、こちらも思わず笑ってしまう。
変だとは俺も思う。
だが、やはり悪くはないとも思う。
本当に変なものだ。
「甘いものが好きだなんて…真田さん、勉強とか得意なんですね」
「へ?」
「よく、勉強すると糖分が必要っていいますから…だから得意なんだなって思いまして…」
「、…」
「真田さん?」
俺の知ってる女子は…いつだって「可愛い」「子供みたい」なんて言葉を吐いていた。
知ったときいつも同じように言われた。
だから、もしかしたらなんて考えた。
−−だが、小向殿は違った。
なぜだろうか、本当になぜ俺はこんなに喜んでいるのだろうか。
心からこんなにも嬉しく思ってしまうのだろうか。
「ふ、くくっ」
「真田さん、?」
「ふははははっ!!!!」
「え、え…!」
「す、すみませぬ…!笑ってはいけないと分かってはいるのだが…笑えてしまって…ふ、くくっ…!」
「う、あ…そ、そんなに笑わないでください!」
真っ赤な顔をして俺に必死に言う小向殿を見ると、心の底から虐めたいという気持ちが沸いて来る。
佐助もきっとこんな気持ちで彼女と接していたのだろう。
そして、彼女に救われた部分があるのだろうと核心もないのに思ってしまう俺は間違いなどではないだろ。
「すみませぬ、もう大丈夫でござる」
「本当にですか?」
「ああ」
「あ、こちら真田さんたちの分です」
「皆の分まで作って下さったのですか?」
「趣味ですから」
そう自然に笑う小向殿を見ると…俺は一体何を見てきたのだろうと思う。
きっとこのような女子は他にもいただろうに、俺はそれを見ようともしなかった。(だからといって小向殿と同じような扱いはできないが)
それは俺の未熟さゆえにだ。
だから、これからは変わらなければならぬ。
教えてくれた小向殿のために。
俺が俺らしくあるために。
「それは某がお渡しいたします」
「え、いいんですか?」
「あい!某にお任せくだされ!」
「ありがとうございます!」
「よいのでござる。小向殿」
「はい?」
不思議そうに見上げる小向殿を見て、なんだか嬉しくなってしまう。
きっと、俺は小向殿が好きだ。
それは恋愛とかそんな類のものではなく、純粋に彼女自身が。
だから…−−。
「佐助と仲良くしてやってくだされ」
「え」
「あやつは大変いい奴だ。仲良くしてくだされれば某も嬉しい」
「私、でよければ…!」
「陽榎殿でなければならないのだ」
「真田さん?」
「いえ、なんでもござらぬ!」
そんな貴殿だからこそ佐助を頼みたいのだ。
君たちに幸あれ
(幸せであってほしいのだ)
Thank you request!!
愛様のみお持ち帰り可
20110203