「ここが、佐助さんのお家?」


龍に途中まで案内をしてもらい、後は口答で言われたことを覚えて歩いてくればそこに建つ立派なお屋敷。和、が際立つような立派なお屋敷。門のところにも猿飛と書いてあり、間違いがないんだと思いました。
胸がドキドキと苦しくなるほどに速く打って、ああ緊張します!インターホンを押さなければいけないんですが、それが出来ない。指が震えて、もし会ってくれなかったら、もし佐助さんがいなかったら、頭がグチャグチャになっちゃう。

また逃げちゃうの?

違う。私は逃げたいんじゃない。会いたいんだ。佐助さんに。
きっと嫌われてたって私は一から頑張れる。うんん。頑張んなくちゃ。龍が私の背を押してくれたんだから。

意を決してインターホンを押せば、特有の音が鳴って、誰がでるんでしょうか?そう考え更けていたら「はい。猿飛ですが、どちら様でしょうか?」と聞こえた。
心臓が早鐘を鳴らす。自然と目に涙が溜まる。この男性特有の低さに、どこか優しさを含んだ声は私の聞きたかった声、佐助さんだ。手が震えて、口が渇いて、何も話せなくなってしまう。ああ、やっぱり私は弱いんだ。


「……陽榎ちゃん?」

「ーっ!」

「本当に陽榎ちゃん、なの…!?」

「…は、はい…」

「なんで、なんで来たんだよ…っ!」

「!!」


最初は佐助さんが出てくれたことに喜べたのに、この佐助さんの切ない声を聞いたら涙が溢れそうになった。私、やっぱり嫌われちゃったんだ。胸が切ない。苦しい。なんなんだろうこの気持ち。ふわふわしててでも切なくて、気がついたらよけいに苦しくなりそうなこの気持ち。佐助さんにしかおきないこの気持ちはなに?
でも今はそれどころじゃない。なんで佐助さんは私を嫌いになったんだろう。何かやっぱり悪いことしちゃったのかな。


「佐助、さん…私、何かしましたか?…嫌われるようなことしちゃいましたか…!?」

「! 違う!陽榎ちゃんが嫌いになったとかじゃない!!この家にいる俺を見られたくないんだ!」

「佐助さんの家にいる佐助さん…?」

「…俺は人形だから、ピエロだから…そんなの陽榎ちゃんに見られたくないんだ」

「なんで、ですか!?佐助さんは人形なんかじゃ…」

「だって俺は家にとっては邪魔な存在だからね…」
自分を嘲笑するように言う佐助さんの声は酷く冷めたもので次の言葉が出なくなってしまった。頭ではピエロじゃない、佐助さんは優しいとかたくさんたくさん出てくるのに、私はなにも言えない。これじゃあ家に閉じこもっていた私と同じなのに、なのに…酷く辛くて、泣くしかできなくて…これじゃダメなのに心が酷く淋しい。言われてるんだもん。

私じゃ救えないって。

わかってるよ、わかってる。私は最近出会った何百人のうちの一人だって。でも、心が佐助さんの安心できる場所で在りたいって言うの。だから、もう言わないで佐助さん。私、もうよけいに分からなくなっちゃう。


「佐助、さん…」

「陽榎ちゃん、…って…」

「え?」

「…帰って陽榎ちゃん」

「ーっ!」

「俺はこれ以上陽榎ちゃんに見られたくない!だから帰って!ーーっ帰れっ!!!」

「!! 、佐助さん…っ」


帰れと言われた瞬間、私はすべての想いが崩れ落ちてしまうようだった。もうこれ以上聞きたくなくて、足は勝手に動いていて、もう…逃げていた。

佐助さん。1番になりたいとか私はもう望みません。
ただ、貴方の顔が見たいんです。



振り返れない
(こんなにも、好きなのに…!)
(佐助さん、佐助さんっ!)






20100310
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