何度も時計と場所を気にしながら辺りを見渡す俺。さっきから鬱陶しい視線を無視しながらたった一人、たった一人の逢いたい大切な彼女を探した。
まだ時間は余裕で、彼女…陽榎ちゃんが来ないことは当たり前。それでもやっぱり気になる俺様はおかしい。きっと俺様は病気なのかも知れない。

おかしいっていえばいくつもおかしいことがある。何故か解んないけど、普段より服装を気にするし、女が来ただけで陽榎ちゃんに見られたら、なんてくだらないことを思う俺様。
はぁーなんか今日の俺様おかしい。


「まだかな陽榎ちゃん?」

「さ、猿飛さん!」

「うえっ!陽榎ちゃん!?」


まさか陽榎ちゃんがもう来てたなんて、おかげで俺様変な声でちゃったよ。
でもやっぱり陽榎ちゃんは人のそういうことで笑わないから可愛いよね。ん?
なんで俺様そんなこと思ってんの?


「猿飛さん?」

「ん?なんでもないよ。あっ、髪型変えたんだー」

「は、はいっ、そのコレは…美容室のお姉さんに言ったら、コレでって!」


恥ずかしそうに視線を反らしながら下を向く陽榎ちゃん。それでもって頬も紅潮してるから緊張してるって俺様にもわかる。やっぱりいつもは二つに縛ってたけど、それを下ろして横に小さくみつあみしてる姿は可愛い。
そしていつもと違う服装。少しフリルのついたワンピースにベストを重ね、可愛い花のサンダルは陽榎ちゃんのふわふわしたイメージにピッタリで、女の子なんだってわかる。でも、それは決して男に色目を使うためとかじゃなく、陽榎ちゃん自身の現れ。
うん。やっぱり陽榎ちゃんは普通の女と違うねー。俺様が平気なだけはある。


「似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「これからもそれでいるといいよ。じゃあ行こう陽榎ちゃん」

「はい!」


不思議と出た言葉。普通なら女にこんな言葉は言わない。だってあんな女どもに言う義理はない。
けど、陽榎ちゃんには自然と出た。そう、なんていうか、俺様と居たって証拠にしたいような変な感情。
あはー。独占欲、なんてことはないでしょ!
横を歩く陽榎ちゃんを見ながらそっと心にしまった。









「あのっ、猿飛さんの幼なじみさんは、どんなものが好きなんですか?」

「えっとねー。そうそう意外にも可愛いもの好きなんだよねー」

「はへー。普通なんじゃ?」

「あはは。見た目で見たら意外なんだよね」

「ふふっ。じゃあ可愛いの選びましょう」


はにかむ姿が女の子って感じでそんな後ろ姿をみた。ちょこちょこと動く姿はやっぱり小動物。癒されるねー。なんたって普段はむさ苦しい、いや熱苦しいかな?そんな二人しか見てないからね〜。

でも女の子ってこういうの好きなんだ、普段から女子高生とか見てるしね。けど陽榎ちゃんは違うんだ。こういうのが初めてだから楽しいんだよね。そんなとこが可愛いんだけど。


「猿飛さん!こんなのどうですか?」

「あっ、いいかもしれないね。薔薇持ったクマなんてあいつ喜びそうだよ」

「よかったです」

「じゃあ俺様買ってくるから少し待っててね」

「はい!私、小物見てますね」


いい子だ陽榎ちゃん。うちの旦那とは大違いだよ。普段なら問題、問題の嵐で、俺様が何度謝りにいったことか。(その度に大将に殴られて、俺様理不尽!!)
それに今日だって出てくるとき何度も何度もどこに行くか聞いてくるし、仕舞いには一緒に行くとか言い出して本当に困ったよ。ったく、旦那も陽榎ちゃんを少しは見習ってほしいんだけど。


「なぁなぁ!さっきさぁ、そこで金髪の女の子が男と離れたんだよ!行かねー?」

「おっ!さっきの女の子だろ?純情系にも手だしますか!」

「!!(それって陽榎ちゃんじゃねーかよ!)おいっ!」

「お客様、ラッピング完了致しました。コチラが商品になります」

「えっ、あ、ありがとう」


男二人が話しているのを聞いて嫌な汗が背中をつたった。さっきからこの店で見てたけど、この店に金髪なんて陽榎ちゃんしかいなかった。それに男と離れたってことは絶対に陽榎ちゃんだ。
男たちを止めようとしたのに店員の女がタイミング悪く話してきたせいで男たちは行っちゃうし、くそっ!急がないと!
店員はまだ話したいのか商品離してくれないし、ちっ。だから俺様女が嫌いなんだよ。自分勝手で男なんてアクセサリー位しか思ってないくせに。本当の俺様たちなんて知らないだろ?


「悪いけど俺様急いでるから」

「あっ、お客様」


間に合って!陽榎ちゃんが危ないんだよっ!

着いたと思うと案の定、陽榎ちゃんを囲む男たち。しかもその手はしっかりと陽榎ちゃんの肩に触れていて、それが俺様の頭に血を上らせる。薄汚い手で陽榎ちゃんに、陽榎に触んなって黒い感情が溢れだし、そのニヤニヤと笑う顔を殴りたくなった。
けどそんなことをすれば喘息持ちの陽榎ちゃんにはキツイ刺激になる。ここだけはグッと抑えるしかない。本当にムカつくけど。


「ねぇねぇ、いいからお茶行こうぜ彼女」

「で、でも待ってる人が…」

「えー。あんな男より俺達の方が彼女楽しませれるよ?」

「…っ!やっ!」

「なにしてんのあんたら」


なるべく怒らないように怒らないようにと抑えたけど、それは無理でいつもより何倍も低い声が出たって自分でもわかった。アイツが陽榎ちゃんの腕を引っ張った時、我慢の限界を超えた。イライラがいつもよりも酷い。
周りで見ている女も、男も、目の前にいる陽榎ちゃんに触っている男も全てグチャグチャにしたいっていう黒い感情が現れる。


「猿飛、さん?」


この顔だ。陽榎ちゃんが眉を下げて悲しそうな顔をすると、その全てを薙ぎ払いたくなるんだ。傷つけたくない、そんな大切な存在だから。


「あんたらさぁ、なに陽榎ちゃんに触ってんの?」

「うっせーな。彼女は俺達といたいんだよ。なっ?彼女…いでっ!!」

「触んなよ。離せ」


低く、低くそう言い放つ。陽榎ちゃんに触ろうとしたこの手。それを思いっ切り掴み、捻りあげる。すると男の顔は苦痛や恐怖で青くなっていき、いいきみだなんて俺様は思った。
離してやれば二人して逃げ出して情けない男、なんて言いそうになった。


「陽榎ちゃん大丈夫?」

「は、はいっ!だ、大丈夫です!助けてくれて、ありがとうございます!」

「…………」


大丈夫なんかじゃないのに。カタカタ震える肩や目に貯まって今にも溢れかえりそうな涙。そして極めつけは無自覚で俺様の服の裾を掴む細い指。
本当は怖くて怖くて逃げ出しそうで、でもそれを必死に押さえ込む陽榎ちゃんは痛々しい。こうやって喘息とかと闘っていたなんて思うと余計に。


「買うもの買ったから外でよっか」

「そ、そうですね」


ふわりと当たり障りなく陽榎ちゃんに触ると一瞬だけ肩が跳ね上がった。けどそれでも振り払われなかったのは俺様も嬉しかった。自分だけ特別みたいな感じに思えて。

外に出れば3時に近いこともあって人が多くなっていた。俺様人混み嫌いなんだよね。人混みって酔いやすくなるし。


「陽榎ちゃん…―」

「すいませぇーん」

「……なに?」

「私たちとお茶行きませんかぁお兄さん」


やっぱりか、なんて思えた。陽榎ちゃんがいるのにも関わらず話しかける女なんてしつこいだけ。それに逆ナンしてるなんてたかが知れる。
陽榎ちゃんを見れば不安そうな顔をしていたから、大丈夫、そんな風な笑顔を送った。


「俺様さぁ、この子といるから無理」

「えーそんなこと言わないで行きましょうよぉ」

「(しつこいんだけど)この子といたいからさぁ」

「もーそんなブスといてなにが楽しいのぉ?私たちならお兄さんもっと楽しくしてあげるよ?」

「はっ?陽榎ちゃんがブス?」

「そぉですよぉーだって付き合ってる感じじゃないですしー」


この女マジで殴っていいかな?陽榎ちゃんがブスってなに?俺様から言わせればアンタの方が性格も顔もブスって言いたいんだけど。本当、鏡で自分の顔見直せって。
けど付き合ってない、そう言われたとき確かに胸が痛んだ。そう。陽榎ちゃんがお兄ちゃんみたいと言ったときと同じくらいに。
最初はなんなのかよくわからなかった。けど今ならわかるよ俺様。って言ってもさっき気がついたんだけどね。


グイッ

「なに言ってんのアンタ?俺様たち見ての通り愛し合ってますけど」

「なっ!」

「さ、猿飛さん!?」

「俺様の彼女恥ずかしがり屋だもんでそう見えないだけ。本当はめちゃくちゃラブラブだよー」

「う、嘘よ!」

「本当、本当。それよりも性格磨いたら?性格ブスって最悪ー」

「〜〜〜〜っ!お前なんてこっちから願い下げだ!」


顔を真っ赤にして去ってく女たち。ったく、陽榎ちゃん馬鹿にすんなっての。こんなにも可愛いんだからさ。
ギュッとこの前とは違うように陽榎ちゃんを抱きしめる。壊れないよう、傷つけないように。大切な女の子だってわかるように。


「猿飛さん?」

「陽榎ちゃん、さっき男たちに絡まれたとき怖かった?」

「えっ、あの…!」

「正直に言いなよ。俺様そんなこと重いなんて思わない。怖いなら怖い、それは言っていいんだよ」

「―っ!!」

「一人で抱えなくていい。多分そうやって喘息だって家事だって治したりやったりしてたんでしょ?確かにそれは強い。けど陽榎ちゃんは女の子なんだよ」

「あっ…」

「俺様助けるからさ。言いたいこと言ってよ。苦しいときには苦しい。助けてなら助けて。俺様が、俺が全部受け止める。全部言えよ陽榎」

「っ!……あっ、本当は…怖かった、です。さっきも、猿飛さんが…女の人のとこに、行っちゃうかもって…不安でした。お願い、です…一人にしないで、ください…!」


この小さな体で全てを背負ってたんだ。怖いことも辛いこともなんにも言わず。
俺様は女なんて嫌いだし、側に居てほしいなんて思わなかった。けど陽榎ちゃんをみて気がついた。

俺はいつの間にか陽榎ちゃんに恋をしてた。

全部が全部、独占欲からくるものだったんだ。触るな、俺様だけを見てほしい。そんな気持ちは全部独占欲。可愛いと思った笑顔や仕草、そして守りたいって思ったのもやっぱり陽榎ちゃんが好きだから。
だから俺様は陽榎ちゃんを助けたい。こんなにたくさんいろんなものを背負ってる彼女を。今回されている手を離したくない。









「もう大丈夫?」

「は、はい。ご迷惑おかけしました!」

「俺様が好きでやってるから気にしないで」

「で、でも!」

「あっ、それなら俺様のお願い聞いて?」

「お願い、ですか?」

「一つは佐助って呼んで?」

「えっ!よ、呼び捨てなんて!」

「呼んでくれないの?」


悲しそうに言えば、あっもちろん演技ね!陽榎ちゃんは小さな声で「佐助さん…」って言ってくれた。今はまだここまでかな?なんて思ってしまった。


「ありがとう。じゃあ最後のお願い。一緒にプリクラ撮ろう!」

「プ、プリクラですか?」

「そう、そこにあるので撮ろう!」


そこまで言うと俺様は有無も聞かずに陽榎ちゃんの手を引きプリクラの機械へと入っていった。やっぱり入ったら入ったでキョロキョロしてる陽榎ちゃんを見て、緊張してるんだって思った。
お金を入れて準備をしてると。


「あ、あの、わ、私初めてでっ!」

「大丈夫。俺様がサポートするよ」

『ラブラブで撮ってね!』

「始まるよ」

「えっ、あっ」


グイッ引き寄せて丁度シャッターが鳴るタイミングと一緒に唇を陽榎ちゃんの頬にくっつけた。本人を見れば顔を真っ赤にして俺様を見上げてて、可愛い、純粋にそう思えた。

結果、陽榎ちゃんとラブラブなプリクラをたくさん撮りました。
お揃いで携帯に貼ったんだー。これはみんなには内緒だね!!


気がついた心
(確かにそれは恋心でした)






加筆修正 20091104
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