さっきから圭が苛立っている。
それは馴れ親しんでいない俺らですら見てわかるほどにだ。

理由は多分二つ。

一つはさっきから毛利の野郎がいねぇ。
一番最初に服を選んでもらってアイツは直ぐに消えた。
多分、これ以上居たら飛び火するのがわかって逃げたんだろ。
けど、それがなにか一言でも言っていたならこっちも心配しねーわけで、言わばアイツの言葉が一言足りないために心配しちまってるわけだ。
俺だって領地の関連で何度か毛利と戦をしたことはあるが、それでも知らない土地となっちまったらアイツを心配するってもんよ。
ま、アイツに言ったところで阿呆か貴様!だから貴様は低俗な海賊なのだ、なんて言うんだろな。

んで二つ目は翠がなかなか帰って来ないからだ。
一つ目のことはもちろん気にしていて心配もしてるんだろうが、心配の大方を占めているのは翠のことだと考えるわけよ。
あの過保護中の過保護圭からすりゃ帰って来ない翠は心配の対象者。
っていう俺もさすがに遅すぎじゃねーかと思ってるわけだが、きっとそれは俺だけじゃなくて他の奴らも同じだと思うわけだ。
政宗の腹心と幸村の忍は微妙だが、政宗はさっきから無意識に翠を探していて、幸村と慶次なんかはずっときょろきょろと辺りを見回している。
それを見れば一目瞭然ってわけよ。


「あ゛ー翠は何してんだよ」


思わず漏れちまったような言葉を聞いて、二つ目のは核心へと近づいた。
案の定翠が遅いことを圭は気にしていたみたいだ。
本当にアイツは過保護だよなーなんて他人事のように俺も思っているが、翠に似た背丈を見ると自然と目がいっちまう辺りアイツのことを心配してんだよな。
何て言うか翠は人よりも大人しくて、一歩引いて相手のことを心配するような奴だから変な奴に絡まれてないか心配になる気持ちもわからねーでもない。


「探しに、行くか…」

「あ、翠ちゃん」

「なにっ!!??」


圭の奴が探しに行く寸前、猿飛がぽつりと翠という言葉をだしたがために圭の奴はそれはもう物凄い早さでそちらに振り返った。
思わず苦笑しかでなくなっちまうのは、しかたねぇ。
そんでもって俺ら全員も振り返ったわけなんだが、見て仰天した。
圭も信じられないのか、固まって口を閉口するだけだ。
そりゃ誰だってなるよな。
あの冷酷無慈悲と言われる毛利元就が翠と並んで帰ってきたうえに、更に荷まで持ってるんだからよ。


「ななななっ!!!!」

「今戻ったぞ」

「ただいま、圭」

「お、おう。おかえり…じゃねぇえぇ!!!!」


あっけらかんと戻ってきた毛利に、その横をちょこちょこと着いてきた翠。
当然そんな二人に圭は言いたいことばかりなんだろうな。
というか、圭が口走った理由もよくわかんだよな。
きっとそりゃ圭じゃなくても問いたくなるぜ。


「なんぞ。喧しくてかなわん」

「なにてめぇ普通に帰ってきてんだよ」

「我は貴様の着物選びが終わるまで時間を潰していたまでよ」

「んじゃなんで翠と戻ってきてんだよ!!??」

「こ奴が変な輩に絡まれていたから撃退して今になったのだ。感謝をされる覚えはあっても説教される筋合いはないぞ」

「うぐっ」


さすがに圭も智将と言われている毛利には勝てないのか、うまく言いくるめられて反論ができていない。
しかも毛利の奴はいつものあの澄ました顔でいるもんだからよけいに腹がたつってわけだ。
俺は何度も経験したから言えるんだけどな。
初めは苛立ってしかたがなかったが、今はもう苛立たねぇ。
それだけ気にするのを止めたんだ。
けど、さすがに翠を助けたとなっちゃ驚くもんで、圭と翠以外は思わず固まってしまう。
だからずっと毛利を見ていたんだが、その視線にはあいつも気がついたのかこっちを嫌そうな顔で見てきやがった。


「見るでない。低能な鬼よ」

「あ゛!!??んだと毛利!!」

「貴様を見ていると気分が悪くなるのよ。我を見るでない」

「見たくて見てるわけじゃねーんだよ!!」

「ふん、そのようなこと我は知らん。よいか瀬川、この馬鹿鬼に近づくでないぞ。馬鹿が移る」

「て、てめぇ!!なにほら吹いてんだ!!」

「我は事実を述べたまでよ」


それだけ言うと一切こっちを見なくなった毛利。
俺だけにぐちぐち言うなら未だしも、翠にまであることないこと言ったからいつも以上に苛立ってしまって思わず手が出そうになる。
出そうになったとき翠と慶次に止められ、やむを得ず止めるしかなかった。

やっぱりあいつとは馬が合わないとわかった瞬間でもあったのは、言うまでもねぇ。




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