目の前にいる彼女が嘘を言ったとは思っていない。
もしも彼女が嘘を言ったとしたら、きっと直ぐに見破れる自信が何処かにある。
それはきっと、彼女が真田幸村と同じように馬鹿正直で無駄なほど人を心配する心優しい少女だとわかっているからだ。
だからこそ、それがわかっているからこそ彼女のあの真っすぐな言葉は気恥ずかしくなったのである。


「我も貴様が言うのと同じように日輪が大切ぞ。感謝もしておる。なによりも好いている」

「!」

「万人に理解を求めてなどおらぬ。それに、あの馬鹿鬼のような知力の低い者らが日輪の偉大さがわかるわけもなかろう」


普段ならばこんなにも話すことはない。
元就自身もそれは理解していて、翠も何と無くだが必要最低限のことくらいしか話さない人間だと理解しつつあった。
それだからこそ今目の前にいる彼がこんなにも話すことに驚いてしまう。(話していることは些か酷いことではあるが)
当然それは元就自身も驚いていて、翠の視線を受ける度にだんだん身体の熱が上がっていく。
次の言葉を発しようにも空気しか出てこず、それがよけいに熱を上げる。彼も直ぐにそれが堪えれなくなり…−−。


「〜っ!行くぞ!!」


彼は慌てて他の彼らが待つ場所へ行こうと足を動かし始めた。


「え、あ…買わない、ん…−−」

「買わん!!それは次に貴様と出かけたときに買いに行く!!」

「あ…」


翠が引き止めようとした声を遮って発言する元就。
その発言は先ほどまでとは逆に翠を固まらせるには十分だった。
なぜならその言葉を素直に受け止めれば…−−。


「(次も…私と出掛けてくれるって意味、なのかな?)」

「なにをしている!早くせんか!!」

「は、はい…!(だったら…)」


そういう意味にとれてしまう。
でも彼にはそんな雰囲気ではないから、なんて心に声をかけるものの、思っていたよりも彼女の心と顔は素直で、気がついたらもう…。


「(凄く嬉しい)」


正直な気持ちで笑っていた。


「…………」

「…?…あの、」

「なんでもない。行くぞ」

「は、はい」

「貴様は…」

「え」

「      」

「、なにか…??」

「よい。気にするでない」


翠の笑顔を見ていた元就の心には先ほどのわけのわからない感情が現れた。
だが、その名前を知りたいわけではない。
それなのに、彼の心はだんだんと違う音を奏でだし始めていて、なにもかもが止まらなくなっていた。
その気持ちはもう言葉として現れていて、発言した元就には聞こえたが、近くにいた翠には聞こえなかったようで少しほっとしてしまう。
だが、発言した言葉を覚えている元就にはやはり恥ずかしいもので先ほどの熱が収まったと思ったのにまた振り返してしまった。


「(我はいったいなにを思ってるのだ。まさか…あのようなことを言うとは…)」


先にずかずかと進みながら顔を思わず覆ってしまう。
そして、普段の彼ならば絶対に後ろを振り返ったりなどしないのだが、なぜか彼女がついて来ているのか確認してしまう。
ああ、本当にどうしてしまったのだ、と思いながらも気にすることが止められない。
きっとこれは自分がよく言っている『感情』なのだろう。
いつもの自分だったらくだらぬ、と一蹴りできるはずなのに今はそれができない。
舌打ちをすることもできず、ただ胸にある変わった感情をどうするか彼は考えるしかなかった。
ましてや後ろを気にする自分はいったいなにを考えているのだろうと思うのであった。


『笑顔の方が似合うぞ』


きっとその言葉は人に初めてかけた賛美の言葉だったのは間違いない。



心に太陽
((我はどうしたというのだ!!??))





20120920
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