「貴様らのような低能な者がこやつに触るでない」


翠に触れようと男たちが手を伸ばしていたその手を誰かが叩き落とす。
突然の行動に翠も叩かれた男も、側にいた男さえも唖然としてしまっていた。
しかし、すぐさま叩かれた男は意識が戻り、叩いた男を睨みつける。
しかし、残念なことに睨んだその相手が悪かった。
彼が睨んだ相手は−−冷徹冷酷鉄の無表情と表現してもいい毛利 元就がそこにいたのだ。


「−−っ」

「なんぞ。それでこの我を睨んだつもりか」

「っんの!!」

−−パシッ

「遅いわ、屑が」


突然現れた元就に邪魔をされ馬鹿にされたのならば、さすがにいくら元就の睨みが怖いとはいえ殴りたくなってしまったのだ。
むろん、見た目がインテリ系で細身の彼ならば殴れるとそこの男たちは思った。
現に殴りつけようとしたとき彼らの顔は笑っていたのが、その余裕の表れだろう。
しかしながら彼は戦国時代といういつ死んでもおかしくない時代に生きていた人物だ。
彼らの真っすぐな攻撃が当たるわけもなく、逆に抑えつけられてしまったのだった。
その見た目にそぐわない力に抑えつけられた彼は驚き、必死にその手を解こうとする。
残念なことにその手は一切放されないのだが。
周りで見ていた男はただ唖然と、翠は驚きに目を見開くばかりだった。


「っの!!放しやがれ!!!」

「何を戯れ事を吐かしている。貴様が我に売った喧嘩ぞ」

「なっ!?てめぇーが邪魔したからだろうが!!」

「こやつは我のぞ。それ故にあのような行動をしたまでよ」


感情の一切篭らぬその声は男たちだけではなく翠にも恐怖を与えた。
ぞくりと背筋が凍るようなそんな感覚に陥り声さえでない。
それはあの声に加え、あの冷徹な瞳のせいでもあるのだろう。
だが、直ぐさまハッとしたのか、男たちも「ちっ!男持ちの女かよ!!」「行こうぜ!!」と言って尻尾を巻くようにして出ていってしまった。
そんな奴らを元就は相手にするわけでもなく見る様子もなく、ただ鼻を鳴らしただけだ。
そして、どこか在らぬ方を見ていた元就は直ぐに翠へと視線を移した。


「あ、あの…」

「貴様は何故声をあげぬ」

「え…」


お礼を言おうとした翠に幾分か先程よりも優しい声色で尋ねてくる元就。
しかし、疑問符を付けないあたり翠が助けを呼ばない人物だとわかっているようだった。
翠が何か言おうにもその瞳で見られては口から何も出てこない。


「声をあげれば周りの奴らが気づくであろう。あのままではそれこそ奴らの思う壺よ」

「その…」

「…そのようになりたくないならば最初から我らの誰かを連れて行け」

「は、はい…!」


やっとその言葉を聞いて翠は彼が心配してくれているのだと理解する。
以前の翠ならばその言葉を聞く前に理解ができたのだろうが、今の翠は言葉にしてもらわないとなかなか理解できないのだ。
なぜなら、彼女が人間不信になってしまったからである。
人が信じれないからこそ、そこにある見えない思いやりや気遣いが見えないのだ。
故に彼女は今、言葉で表現されないと相手の気持ちが理解できないのである。
そんな翠に対して元就も興味がないのかあまり突っ込んでは話ささない。
そして翠を見ながらため息を一つ。


「まだ買っていないのか…」


その手を見ながら何も持っていないので直ぐさまわかった。
まだ買い物は済んでいないと。
翠も言われた意味がわかり、申し訳ないと頭を下げる。


「す、すいません…」

「仕方ない買いに行くぞ」

「え…」

「我が選ぶ。貴様も早くこんか」

「は、はい!」


言うのが早いのかわからないくらいに元就は店の奥へと進んでいく。
そんな彼を追うように小走りでついていく翠。
これから始まる買い物が一つの翠と元就の絆されであった。





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