「疲れたぜ…!!なんでショッピングモールに来るまでがこんなに大変なんだよ!!??」

「あ、あはは…」


大型ショッピングモールの前で大声で叫び、疲れを表す圭に翠は乾いた笑いしかできない。
というのも原因は彼ら−−戦国武将たちにあった。
ここは戦国時代ではなく現代である。
むろん、文化や習慣などは長い年月の間で変化を見せた。
それは言葉や勉学、納税制度もそうなのだが、その中で特に大きな変化をしたものがある。−−文明だ。
文明の発達は昔と比べると格段に発達をしている。
過去の者がそれを見たならば、それはまるで夢でも見ているような現象にされてしまう。
それは彼ら−−戦国武将らも例外ではない。
それ故に、来る途中彼らは「瀬川殿!!あ、あれは一体…!!」「あの鉄の塊はなんだ圭!!??」「What!!??あの小さい箱はなんだ!!」「あの嗜みのなっていない格好はなんぞ!!」などと翠と圭に問いただした。
新しいものを見たらその度に彼らが問いただすものだから、30分の道のりが1時間30分もかかってしまった。
翠はあまり気にしてはいないが、圭はこの真夏に無駄な体力を使ったと思ってしまってもしかたがないだろう。


「疲れたって…答えてたのは翠ちゃんで圭ちゃんは答えてないでしょ」

「圭ちゃん言うな!うっせーっ!!お前らの質問がめんどくせーんだから仕方ねぇだろ!!」

「それ以前に貴様は知識が乏しいぞ。翠は貴様と違って低能ではない」

「あ゛!!??悪かったな馬鹿で!!!」


ぐわっと鬼のように怒る圭だが、なにぶん図星のために強く言い返せない。
実際に翠は頭がいい。
それは勉強に限らず、色々な知識においてもだ。
そのため、勉強はせずに部活一筋だった圭とは雲泥の差がある。
悲しいことにテスト前に圭は、翠に勉強を教えてもらうことが当たり前になっていた。
それを言ったものならば馬鹿にされることは目に見えている。
故に言わないだけであり、自分自身も頭が弱いと圭は理解してるのであった。
そんな子供みたいな反応に武将たちもわかったのか、些か視線が生暖かい。(むろん、質問に詰まらず答えていた翠を見て圭より幅広い知識を彼女は持っていると気がついてはいたが)


「さっさと入るぞ!」


むろん圭がその視線に気がつかないわけもなく、彼はそそくさと大型ショッピングモールに入っていくのであった。
そんな彼を慌てて翠と武将たちは追いかけていくのである。


「圭…どこ、から行く?」


入ってすぐに翠は圭に質問をした。
それはこの大型ショッピングモールでどのように行動していくのかを指している。
むろん買うものはわかっている。
そしてお金も下ろした。
なにぶん準備は万端なのだが、買うものが多いために今後の行動をどうするか悩むのである。


「そーだな…全員で回るのは効率がわりぃからな…」

「うん…」

「翠が日用品を選んでこいよ。俺がお前じゃ見にくい服とか下着見てくるからよ」

「あ…そう、だね…」

「んじゃこいつらつれてくから」

「わか、ったよ…」

「あ、重かったりして持てなかったら連絡よこせよ。俺が行くから」

「うん…」

「じゃ、また後でな」


圭によってうまく振り分けられた仕事内容。
それがあまりにも適切なために翠が異論をとなえることもなかった。
だからといって武将たちが服を見ると圭が言ったときになにも思わなかったわけではない。
もちろん数人の肩が上がり、顔色が変わったのは本人たちしか知らない。


「行くぞ武将ども!!!」


そう言って翠と圭は互いに別れたのだが、そのときの武将たちの背中はとても嫌そうだった。


*********


「あ…(好みを聞き忘れちゃいました)」


雑貨屋に来ていた翠はふとそんなことを思った。
茶碗やお箸、コップなどを見ていたが、彼らの好みを聞いてなかったのだ。
別に彼らはそういったことを気にしたりしないのだが、なにぶん律儀な彼女はとても気にしてしまう。
うーんうーんと悩みながらずっと雑貨屋にいる。
そして、そんな翠をずっと見ていた陰はそっと近寄ってきたのだった。


「ねぇ彼女ー」


寄ってきた二人の男性は一生懸命雑貨を選んでいる翠へと話し掛けた。
しかし、残念なことに翠は一度集中してしまうとなかなか気がつかないのである。
そんな翠の様子に二人組も気がついたのか、再度翠に話し掛けることを決めたのであった。


「おーい彼女!!そこのワンピースの彼女!!」

「え?」

「ようやく気がついてくれた〜」

「あ、あの…」


びくっと肩を思いっ切り跳ねさせて翠は後ろへと振り向く。
その反応に気をよくしたのか話し掛けた男性たちはそれはそれは嬉しそうだった。
だが、翠も変に鈍いわけではない。
話し掛けてきた二人組によくない感情が見えてその瞳に警戒心と不安が反映される。


「ずっと雑貨屋で商品見てるけど、もしかして今日一人で来てる?」

「だったら俺らと遊びに行かない?」

「すっげー可愛くて好みのど真ん中なんだよね!」


翠の思考はあながち間違っていなかった。
案の定、彼らは翠をナンパしにきていたのだ。
よく男性を見ればその容姿は派手で、それなりに遊んでもいるように見える。
さっきまでの不安や警戒心は核心へと変わり、一気に恐怖が彼女の体を駆け巡った。


「そ、その…」

「うわぁ!その恥じらい方めっちゃかわいい!!」

「決定ー決定ー!!遊びに行こうぜ!!」

「ひっ!」


しかし、そんな翠の反応は彼らのいいような思考に変えられて無意味とかしてしまった。
当然翠もそれに気がついてはいるのだが、人を怖がる翠にとっては硬直して動けなくなってしまうのだ。




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