着替えの終わった翠はチラチラと圭の家を見ながら待っていた。
そのチラチラと見てしまう理由といえば簡単だ。
先程、圭の着せ替え人形になるのが嫌で戦国武将だという何も知らない彼らに押し付けて逃げてしまった。
そんなことしてはいけないと知っているが、あの圭の趣味は壮絶なのである。
以前翠が圭にされたときはなんと大変なことだろうか。
容赦なく次々渡される服に靴。
また、化粧や髪型までとこだわったことをやるものだから逃げたくてしかたがない。
逃げたら逃げたで鬼の形相で追い掛けてくるのだが。
というのがあり、押し付けてしまったことに罪悪感を感じているのだ。


「(頑張ってくださいとは言いましたが…押し付けてしまって本当に申し訳ないです…!!)」


どうしようどうしようとパニックになりながら、さっきから圭の家の門の前を行ったり来たりしている。
そんな姿は些か不審者であるということは言わないでおこう。
そして、ぐるぐる回っていた時ガチャと音がして翠が圭の家を見る。
瞬間−−顔が青ざめたのはしかたがないだろう。


「よう!待たせたな翠!」


それはもう爽やかも爽やか、今日1番の笑顔ではないかというくらいに嬉しそうな顔で出てきた圭。
だが、忘れないでほしい。
その後ろにはグッタリとした先程よりも窶れたのではないかと謂いたい武将たちがいることを。
むろん、それが翠を青ざめさせた原因である。


「お、そのコーデいいな」

「う、うん…あ、ありがとう、」


圭は翠の着た服にたいして高い評価をする。
しかし彼は知らない。
翠が彼の評価を怖がっているために、しっかりとしたコーディネートをするとは知らないのである。
なにせ鏡の前で何着も着たのだ。
ここで圭にダメだしをされたら何の意味もない。
苦笑しながらも笑う翠は圭の扱い方には長けていた。


「んじゃ行くか」

「う、うん…」

「は!!??翠ちゃんそんな格好で行かせるの!!!??」

「「へ?」」


さぁ、もう行こうではないかというときにかかった佐助の怒号。
そんな格好でと言われて翠も圭も翠の服へと視線を移すが、これといった違和感もなく普通のコーディネートである。
何か変なところがあるわけでもなく、行ってはいけないような服でもない。
やはり意味がわからないといった気持ちが込められた視線を佐助に投げ掛けるが、それは佐助の睨みで視線も言葉もでなくなる。
だが、それは佐助だけではなく他の武将たちも同じであった。


「そんな肌を露出していいわけないだろ」

「女だったらもっと慎みのある服を着なきゃいけねーぜ」

「え…」

「破廉恥でござる瀬川殿!!!」

「あ、の…」


服、そう指摘をされて翠も圭もまた服を見るが、やはり理由はよくわからない。
だが、直ぐに露出という件で圭にはなんとなくだが理由がわかってきた。
翠が着ているのはVネックの白い清楚な半袖ワンピース。
それにベルトとストールが付いていて、フラワーコサージュの付いているサンダル、バックというシンプルな着こなし。
ひいき目無しに似合っていて可愛いと圭は言える。
しかし、武将たちが言っていた露出という点に着眼すると話しは別だ。
半袖のために腕はでており、足もワンピースの丈が短いために出ている。
胸元もVネック故に露出もしていた。
昔の着物に比べれば格段に増えた露出ではあると考えるが…些か気にしすぎではないだろうか。


「あのよ…これ普通の格好だぜ」

「Why!!??それ本当かよ!!んな格好で翠を連れてくのか!?」

「翠より露出が多い奴はもっといるぜ」

「だからって翠ちゃんがそんなに露出していいわけないだろ?」

「あ?オシャレだからいいんだよポニーテール!!」

「慎みのある格好をしてこそ女ぞ。女、この低能な鬼から羽織りを借りて着よ」

「低能ってなんだよ!!!!あ、羽織り貸すから着な!じゃねーと風邪ひいちまうぜ?」

「え、あ…す、すいま、せん…」

「気にすんなよ!」


圭の言っていることなど無視、無視、無視の武将たち。
むろん嫌いだとかそういうわけではない。
だが、世話になる彼女が露出の多い服で歩くなど堪えれないのである。
なにしろ彼女は一般的に見れば可愛らしい部類に入る女の子であろう。
そんな彼女がこんな露出の多い服で歩くということは、世の中の変な男子たちの視線をもらうことになる。
それだけはあってはならない。
心優しい少女を守らなくてはいけない、という正義感からか余計に過保護になってしまう。
結果、圭の言っていることを無視してしまうことに繋がったのだ。
しかし、圭のことをよく知らない武将たちはここで地雷を踏んでしまったことすら気づかない。
彼は…−−自分が手に掛けたコーディネートを変えられるのを極端に嫌う。
故に静かなる怒りはふつふつと燃えていた。


「てめぇーら…あとで覚えてろよ」


地を這うようなその声に翠だけではなく武将たちも背筋が凍る思いをするのであった。




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