きっと大丈夫、また前みたいに笑ってくれる。
−−あの時の私はそう信じて疑わなかった。

最初はただ大好きな友達だった。
いつも側にいて、私のことを理解してくれて、私をただの私で見てくれた彼女。
暖かくて、優しくて、綺麗で、可愛くて、強くて…なんでも持っていた。
すごく素敵で、ああ…私もあの娘みたいになりたいって思った。
ボンゴレとか姫とか従姉妹とか…そんなくくりがなくて、あの娘みたいな純粋な綺麗な子に私は憧れた。
−−けど、いつしか憧れは好きに、好きは愛情に、愛情は…憎しみになった。

私だけを見ていれば彼女は幸せになれる。
他人なんて見ていてはダメ。
私が彼女の絶対的なる存在であとはいらない存在。
私の従兄弟のツナも隼人も武もリボーンも京子も花もハルも恭弥も骸も凪も、他の人、みーんなミーンナ彼女には必要ない。
私だけが彼女の存在でよかった。
歪んでいる、狂っているとわかりながらも私はやめられなかった。
とまることなんてできなかった。

どうしようもないほど好きだったから、好きだったからから、愛していたから私は彼女に告白したんだ。
けど、彼女は…−−。


『私も吉野ちゃんが好き。でもそれは友達としてだよ』


それを聞いた瞬間私の中のなにかが壊れた。
裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた、ウラギラレタ。
私にはそれしかなかった。
こんなにも私は愛していたのに、なんでわかってくれないの?
そんなふうに思った私は一つの、うんん…最大のウソとアヤマチを作った。


『私のものにならない貴女なんてだいっきらいっ!!消えてよ!!!』

『−−え?』


そこからは行動は早かった。
いつも彼女が護身用に持っているというクナイを奪い取って自分の腕を切り裂き叫んだ。
ちゃんと彼女がやったとわかるように無理矢理握らせて。
あとはとんとん拍子に話しが進んだ。
みんながみーんな彼女を嫌いになった。
元から私はこの並中やボンゴレで姫だったからとっても楽だった。
なにもしてない彼女が悪者で私が被害者。
可哀相なくらいに嫌われて、仲間や友達って思っていた人に裏切られた姿は滑稽でしかなかった。
だから私は気がつかなかった。
−−彼女の中でもう変わりはじめていたものがあるとは。

正直、嫌われてしまえば彼女は私に縋ると思った。
どうしようもないくらいに私に依存してしまうと思った。
だけど彼女はしなかった。
それが悔しくて、憎くて更にイジメがひどくなるようボンゴレ本部にも言った。
するとヴァリアーもディーノも出てきてドンドンヒートアップをしていって留まることを知らなくなってしまった。
同時に彼女の怪我は到底有り得るものでもなくなった。
腕が折れてたり、爪が剥がされてたり、火傷したり、風穴なんて当たり前になっていた。
太ももなんて二倍に膨れあがっていたこともある。
それに食事だってまともに摂っていないからやせ細っていった。
もう見ていられなかった。
三ヶ月にも渡る壮絶なイジメ、いや殺人行為に私は精神が崩壊しそうになった。

最初は憎くて仕方なかったのに、私はやっぱり彼女が好きだった。

極めつけは彼女が久しぶりに教室にきたときのセリフのせいかもしれない。


−−ガラガラーッ

『…………』

『うわぁーてめぇ何しにきたんだよ!吉野ちゃんが怖がんだろ!!』

『最低なこはうちのクラスにいらないよーっ』

『オレの従姉妹にまたなにかする気なの!!??』

『………』

『?(様子がおかしいよ)』


瞳は朦朧としていてまるでなにも見ていないようだった。
明らかに様子がおかしい彼女に周りも気がついたのか動揺が隠せていない。
ドクンドクンと嫌な感じに心臓が高鳴った。


『やっぱり…』

『え、あ…ひかりちゃん?』


久しぶりに呼んだ名前。
カラカラの声じゃ呼んだに入るかわからないけど、本当に久々だった。


『人間って、すっごく汚いね』

『−−え、』

『見つけたよ伊賀 ひかり』

『っ、恭弥待って!!!』


叫んだときには遅かった。
ボカリと音がした瞬間、ひかりちゃんの頭から鮮血が孤を描いて飛び散った。
どさりと倒れた彼女。
周りは安心したように息をつくが私にはできなかった。
普段なら少しはひかりちゃんの手が動いていた、なのに、今回は全く動かない。
嫌な汗が、嫌な予感が私はした。
嘘だと思いながらも彼女に近づく。


『吉野!危ないから近づいちゃダメだ!』

『ひかりちゃん、?ねぇ、ひかりちゃん?』

『…………』

『返事して、よ、…ねぇひかりちゃん!』


嘘だ、嘘だ、嘘だと思いながら彼女に触れる。
持ち上げれば私でも女の私でも軽いと思ってしまうほどだった。
ポタポタと落ちる血、血の気のない表情、冷たくなっていく体、弱くなっていく脈拍に私はもうダメになった。
だれかがこれで安心、そんなことを呟いた瞬間に私はもう偽るのをやめた。


『安心なんかじゃない…』

『え?それよりも吉野さん、そんなゴミから離れてください。汚い血で汚れちゃいます』

『隼人も、ツナも武も恭弥も…このクラスもみんな馬鹿ばっかり』

『吉野?』

『ひかりちゃんが私に危害を加えたなんて本当に思ってるの?』

『−−!』

『っ、あんなの私の自作自演よ!!私はひかりちゃんが好きだったの!大好きで大好きで…!だけどフラれたから、フラれちゃったから陥れることにしたの!!』

『なに言ってんだ吉野?まさかそいつに言えって言われたのか?』

『そんな訳無い!!なんで気がつかないのよ!ひかりちゃん一度もみんなの前で暴力振るったことないじゃない!!』

『っ、』


私が叫ぶとみんなすごく驚いた顔をしたあと、ひどく泣きそうな顔をした。
おかしいって私も思った。
だってなんでリボーンは気がつかないの?
ヴァリアーもディーノもビアンキもみんなみんななんで気がつかないのよ。
マフィアなんでしょ、みんなを守るマフィアなんでしょ?
ならなんで気がつかないのよ、気づいてよ。
気づいてくれなきゃこんな私、止められないじゃない。
苦しくて、悔しくて、切なくて、あまりにも悲しかった。

みんなひかりちゃんが運ばれていく中、誰も私を責めなかった。
うんん、同罪だと嘆いていた。
あとを追うようにして病院に向かった私たちを待ち受けていたのは−−切ない現実だけだった。


『どうしたんですか沢田さん?』

『ひかり、ちゃん…?』

『ひかりちゃん、オレ…オレっ…!』

『謝らなくて大丈夫です沢田くん』

『え、』

『私なんて所詮は汚い忍ってわかりました。貴方たちのお姫様とは違うってよくわかりました』

『ちがっ…!』

『君達とではやっぱり住む世界が違ったんです』


そう言ったひかりちゃんの目は誰よりも冷たくて、ああ私が彼女を変えてしまったんだって私は分かってしまった。
イジメが始まったあの日。
大切な友達をなくし、傷つけた私は−−彼女の人生そのものを壊した。




(それでも、戻りたかったの)






20101019
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