「私…やっぱりひかりちゃんに嫌われちゃったみたい」
その言葉を聞いて言いようのない悲しみが押し寄せた。
前のオレなら絶対にひかりちゃんを殴りに行ってた。
ひかりちゃんが何度無実を訴えようとオレはお構いなしに殴っていただろう。
けど、今のオレにはそんなことする気もない。
してしまえばひかりちゃんが傷付くのもわかるし、なにより…今度はオレがイジメの対象になるだろう。
……怖いんだ。
あんな風に自身がイジメられてしまうのが。
どうしようもなく怖くて、あんな目で見られたくない。
イジメなんて誰かのために、なんて名目打ってるだけで、本当はストレス発散であり、楽しくてやっているんだから。
わかってるから余計に嫌なんだ。
「吉野さん…」
「大丈夫だって吉野!ひかりも素直になれないだけだぜ」
「そんなことない!そんなことない!!ひかりちゃんは私たちが嫌いよ!!じゃなきゃ、あんなふうに行動しないわっ!!」
どこかヒステリック滋味て叫ぶ吉野にやっぱり返す言葉が見つからない。
屋上にいる人はオレたちだけだっていうのに、気持ちが全く落ち着かない。
こんな、わからない恐怖は初めてだ。
ひかりちゃんになんて言っていいのかわからないし、ましてや吉野にかけてやる言葉さえ浮かばない。
ただ以前の生活に戻りたいって、こんな時いつも思う。
朝から獄寺君が迎えに来て、吉野と3人一緒に登校して途中で山本と会って、校門で雲雀さんに服装検査されたり、それで教室に行けば黒川と京子ちゃんが居て、チャイムが鳴るギリギリに来るひかりちゃんをヒヤヒヤしながら待ったあの些細な日常。
楽しくて、欠けてはいけない日常だと何回も思った。
それに、オレは以前にも似たようなことを獄寺君にも言っていた。
リング争奪戦の時にそれを言っていたんだ。
けど、それでもオレはすべてを裏切った。
ひかりちゃんはあんなにもオレたちを信頼していたのに、すべてを裏切ったんだ。
また信じてほしい、なんて虫の良すぎる話だよ。
「だけどひかりは許してくれたんだから嫌いじゃねーって」
「許してくれても嫌いじゃないなんて限らない!ずっとずっと腹の底では怨んでるかもしれないじゃない!!」
「ひかりに限ってそれはないと思いますが…」
「有り得ない話じゃない!!だって私はひかりちゃんじゃないんだから!!!!」
悲痛に満ちたその声にオレは、オレたちはなにも言えなかった。
いや、言っちゃいけないんだ。
あれだけ仲のよかった吉野なら、どれだけ苦しいか、どれだけ変化したのがわかるのか、全部想像のつかないものだから。
よくある漫画の展開みたいに和解してもう一度なんて無理だって知ってる。
ここは漫画の世界じゃなく現実なんだから。
ひかりちゃんがオレたちを許せないのは当たり前なのかもしれない。
そう考えると涙もでないや。
「私はただ戻りたいの!あの前のようなみんなとの関係に!!」
「吉野…」
その台詞はオレ達の気持ちの代弁でもある。
オレだけじゃなくてみんな思っているんだ。
戻れることなら戻りたい。
ずっとずっとあの日から願った。
でも、あの日が来るまではずっとひかりちゃんが悪者だと思っていた。
よく考えれば分かっていたことなんだ。
だってひかりちゃんは忍者でオレたちの攻撃が当たるような人じゃない。
それなのに当たっていたなんて…理由は明白だったんだ。
その時はずっと信じてくれていたんだ。
オレたちとの絆をずっとずっと、誰よりも…−−あれ?
なんだかひっかかる。
なんでだ?なんでひっかかる?
「(あ…)」
ひかりちゃんがオレたちを拒絶し始めたことだ。
だって虐めが続いた三ヶ月間、ひかりちゃんはずっとオレたちを信じていてくれた。
それなのに、急にオレたちを嫌った。
これって一体なんでなんだ?
「ツナ?」
「え、あ!な、なんでもないよ!!」
山本に名前を呼ばれて慌てて顔を上げるが、心はなんにも納得してない。
なんでこんなにもザワザワとした気持ちになるんだ?
オレはもしかして大事なことを忘れたり、知らなかったりしてるんじゃないかって思う。
わからないけど、超直感故に思うのかもしれないけど、それでも考えることが止めれない。
「私は…!!私はひかりちゃんが私たちを好きなんて信じないから!」
「吉野!」
そう大声で叫んだ吉野は屋上を走ってでていってしまった。
時々こうやってひかりちゃんのことで彼女とは話すが、やっぱりその話は無理みたいだ。
きっとひかりちゃんとの関係が修復しないかぎり吉野はずっとずっと悲しみに陥る。
−−なんて思ってはいるものの、結局はオレたちだって同じだ。
いつかがいつ訪れるなんてわからないけど、笑い合える日をオレたちは何時だって心の中で考えている。
今日も出ていった吉野を追い掛けるべくオレたちはそう考えながら屋上を出ていく。
でもオレは気がつかなかったんだ。
この時感じたしこりこそが−−ひかりちゃんを変えた全てだとは。
小さなしこり
(それが全てのハジマリ)
20120314