偶然だった。
それで、一目惚れだったんだ。

巡察で通っていた道ではあった。
よく見る茶屋で、何回か巡察のときに覗いていた。
だけど、そんときアイツは見なかったんだよな。
いや、アイツじゃなくてあの娘。
看板娘って周りの人が言っていたから、そうなんだと思う。
まぁ、あながち間違っていないような、いや。
絶対に間違ってない。
花が咲いたように笑う彼女は可憐で、華奢な体を見てると守りたいって思う。
けど、お店で働いている姿を見ると小動物が必死に動き回っているみたいで可愛いんだ。
自分でもおかしいってのは重々承知なんだ。
新撰組の俺が恋愛に現をぬかすなんて、土方さんに知られたらただじゃすまないよな。
わかっているんだ。
俺はいつ死ぬかわからない存在だ。
恋なんてしても心残りができるだけだって。
でもさ、それでも止まらないんだよ。


「−−け−−」


これが恋ってやつか。
第一、千鶴は近くに居ても恋愛対象じゃないんだよな。うん。
まぁ、俺があの娘に惚れちゃったってのも関係あるんだろうけどさ。


「−−すけ、−い−−」


考えては見たけど、あの娘ひいき目なしに可愛いんだよな。
優しい顔して笑うし、体は華奢だし、でも色白でほんのり染まった頬とか、とにかくすっげー可愛いんだ。
ってこれ左之さんや新八っつぁんに知られたら手ぇだされんじゃねぇ。
そんなことさせるわけにはいかねーっ!!
今のうちに釘さしとかなきゃいけねーじゃん。


「−−いーすけ−−」

「左之さんと新八っつぁんぜっっったいに手ぇだすなよ!!!!」

「は?」

「お、おい平助」

「だいたい二人は手が早いんだからさ!絶対だからね!!」

「テメェは俺の話を聞きやがれ!!!!」

ゴチィィィン!!!!

「あだぁあぁあぁあ!!??」


左之さんと新八っつぁんに注意を促していれば、土方さんの怒声と一緒に強烈なげんこつが落ちた。
脳天までぐわんぐわんさせるそれは痛くて、思わずそこを押さえてしまう。
いってぇーなんて呟きながら上を見ればそこにいるのは鬼。
こぇえぇーって言いたいところだけれど言ったら最後。
土方さんがキレて長々しい説教に、素振りが待っているから決して言わない。
我が身が大事なのは…だれでもそうだよな。


「テメェは何度俺に名前を呼ばせる!!!」

「す、すいません」


慌てて頭を下げれば、今現在の俺の状況を思い出す。
やべぇ。今日は急に召集かけられて、今は土方さんの話しを聞いてるときだった。
もしも重要なことを言っていて聞いてなかったなんてしたら…無理だって!俺、死んじゃうって!!
ちらりと横を向いて助けを求めようと思えば左之さんは目を背けるし、反対側の新八っつぁんなんて笑いを堪えるのに必死。
一君は関係ないって顔してるし、総司は大爆笑してる。
ってか助けてくれたっていいじゃん!
聞いてなかった俺も俺だけどさ!


「ちっ。話しを聞いてなかった罰だ。てめぇに使いをさせる」

「えぇ!!??」

「ああん?文句あるのか?」

「いえ、ありません…」


鬼のような顔した土方さんの要求を断れる奴を俺はつくづく見たいと思う。
こういった時の土方さんは融通がきかないから、黙って大人しくきいてるのが得策。
はぁ…いいことねぇーな。


「全員分の茶菓子買ってこい。もちろん平助の自腹でな」

「!」


茶菓子って今、土方さん言ったよな?
え、場所指定してないってことは…、


「おう!行ってくるよ土方さん!!」

「は?」

「みんなの団子しっかり買ってくるよ!!もちろん俺の自腹で!!」


俺が嬉しそうにしているのが有り得ないのか、そこに居た全員が目を丸くしていた。
だけど、それは俺にとってどうでもいいことで、直ぐに席を立って自室へと急ぐ。
後ろからなにかを言っている声が聞こえたけど、今はそんなの関係ない。
あの娘に、あの娘に会えるんだ…!
それが嬉しくて柄にもなく照れてしまう。
へへっ!急ごう!!



*********



「着いた…」


と呟いたのはいいけど、今更ながら緊張してきた。
店の前に立っただけでこれなんだから、会ったらどうなんだよ。
非番の日はよく来ているけど、仕事中に来るのは初めてでやけに心臓がバクバクいう。
情けないことにまったく足も動かないものだから嫌になる。
大丈夫だ。仕事で来てるんだから、なんにも緊張することねーじゃん、なんて自己暗示するもののやっぱりどこか張った神経は解れない。
ああ!!いい加減にしろよ俺!!


「藤堂さん?」

「へっ!!??」

「あ、驚かしてしまい申し訳ありません!」

「いや!いいって!!」

「すいません…」

「だから気にするなって!!」


気がつけば真っ正面にいた彼女。
名前を呼ばれたことに驚いていれば、驚かしてしまったことへの罪悪感からかスッゴく申し訳なさそうに謝る彼女を見てしまう。
それがどうしようもないほど俺の胸を締め付けてしまった。
だから慌てて弁明するが、最初は気にしてながらも少ししたらいつもみたいに笑ってくれた。
やっぱりその笑顔…好きだ。


「あ、本日はいったい…」

「今日は、あの!みんなに団子買ってきたくて!!ここのすっげー美味しいからみんなに食ってもらいたいんだよ!」

「わぁ!!ありがとうございます!!」

「いやっ!と、とりあえず10人前くらい頼めるか?」

「はい!!ただいまお持ちいたします!!」


罰のために買いにいかされたなんて口が裂けても言いたくないから、まぁ嘘は方便程度で言えば心底嬉しそうな顔をした彼女。
本当にこの店が好きなんだってわかるし、ああいうところが看板娘でもあるんだって思えた。
入って行ってしまった彼女を待つために長椅子に座っていれば、またパタパタと走ってくる音がして直ぐに振り向く。
両手いっぱいに持っている団子。
そして小走りの彼女を見て顔が緩むのはしかたねーよな!!
すっげー好きなんだからさ!


「お待たせいたしました!!」

「いや!大丈夫だって!!って…多くないか?」

「これ、あの…」

「?」

「藤堂さんに差し上げます!!食べてもらえませんか?」

「い、いいのか!!??」


はいっ!!と微笑む彼女は優しげで、可愛くてどんどん顔が真っ赤になっていくのがわかる。
やっべー!すっげー嬉しいんだけど!!
お金を渡しながら、彼女を盗み見れば少し頬を赤くした彼女と目があう。
そんな姿が初々しくて、俺、幸せで死ねる!!


「んじゃありがたくもらうな!!」

「はい!!」

「また、来るから!!じゃあな千代!!」

「っ!!」


今まで名前は呼んだことないから呼べば、スッゴく恥ずかしい。
そんな照れを隠すために団子を持って急いで走り去る。
だから、後ろで真っ赤になっている彼女を俺は知らなかった。
とりあえず頑張るかな!!





(また会いにいってもいいよな!!)






20110902
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