馬鹿みたいな自分の存在に嫌になるのはいつものこと。
けど、素直になれなくてこんなにも苦しいのは初めて。
なんで私はあんなこと言っちゃったのかわからないし、わかりたくない。
素直になれない自分が嫌いで必死に素直になろうとすればするほどどんどん酷くなってしまう。
こんな螺旋状の気持ち…嫌だ。


「…っ、」


聞こえる彼女と彼の会話。
いつもみたいにじゃれあって幸せそうな彼の表情を見る度に私の胸はぎゅっと締め付けられて苦しくなってしまう。
忍なのに、私は忍なのにこんないらない感情を持って…。
なんで割り切れないんだろ、なんでこんな感情を持ったんだろ。
彼のせいじゃない。
ただ私が罪を犯しただけなの。
一度でも羨んだ私が悪いの。
彼女みたいに感情に素直になりたいとか思ったから、だから罰が当たったんだ。


「まぁかすがには無理だろうねー」

「貴様っ!!本当に貴様は苛立つ存在だ!!!」

「そんな怒ってもねー。…ん?もしかして千代ー?」

「っ!」

「なにっ!?千代いるのかっ!?」


どうしよう、どうしようなんて思ってしまって頭は混乱状態。
別に彼らの恋路に興味を持ったからこの場に居たわけじゃなく、ただ帰る雰囲気を逃しただけ。
ああ、義弘様!
私めは失態をしてしまいました。
どうすればよろしいのでしょうか!
ま、まずは逃げなくてはいけないよ「あーやっぱり千代だ」みつかったあああ!!??


「猿飛、さん」

「やだなー昔からの仲なんだし今更改まって言わなくてもいいよー」

「はっ!千代はただ貴様の名が呼びたくないだけだろ。ひ、久しぶりだな、千代」

「はい、かすがさん」

「なっ!?」

「ほーらかすがもじゃん」

「うるさい!!どうした千代!島津になにかされたのか?」

「そんなことないです。すっごく義弘様の待遇いいです」

「じゃあどうしたの千代?」


ひどく心配したように見ているかすがさんと猿飛さん。
昔から一緒にいた私の心配をしてくれているんだってわかった。

でも昔から一緒にいたのはただ、あれなだけ。
私たちは稀なる異端者だったから。
かすがさんは金色の髪、猿飛さんは稀なる優れた才能と橙に近い髪。
そして、私は…空色の髪に在るはずのない婆娑羅の力を持っていた。
異端の中の異端。
それが私だった。
里では同い年に近いものは恐れ、上の者には気味悪がれ、長はただ利用するばかりだった。
そんな私が安心などできるわけもなく常に気を張っていたとき助けてくれたのがこの2人。
すごく嬉しかった。
なにより、そんなとき猿飛さんへ恋に落ちるのは時間がかからなかった。
でも、猿飛さんは私じゃなくかすがさんを想ってた。
だから身を引くしかなくて、全てから私は逃げたのだ。
抜け忍の私がいるのに、かすがさんだって抜け忍だけどいつもいつも2人は私に優しくしてくれる。

本当に感謝してもしきれないよ。


「ただ、いろいろあって…」

「そうか、無理にとは言わないが昔みたいにゆっくり触れ合っていけばいい」

「はい…」

「それより千代がこっちにいるなんて珍しいね。任務帰り?」

「そうですよ」

「ねーねー千代の今度の非番いつ?甲斐を俺様が案内してあげるよー」

「なっ!止めとけ千代!こんな変態より私が越後を案内してやる!」

「ちょっ!変態とか酷くない!?」

「普通だ!どうだ千代?」

「あの……っ、暇があったら…」

「そうか。わかった」

「連絡まってるねー」


ズキンと確かに胸が痛んだ。
やっぱり2人には特別な絆があって、私には入ることができない。
なんで恋なんてしたのかな。
こんな気持ちになっちゃうなら恋なんて知りたくなかったし、2人とも出会いたくなんてなかったよ。
私、すごく嫌な人だ。


「もう、行きますね」

「も、もうか?」

「はい」

「そ、そうか。またな千代」

「今度は俺様だけのときに来てねー千代」

「、はい」


そんなこと言っても多分、私と猿飛さんだけで会ってくれることはないような気がする。
私も会わなければ彼もだと思うし。
とんとんと等間隔で木の上を走っていけば自然と髪が揺れる。

今だけはこの空色の髪が憎かった。





(思い出がいつか色褪せて)
(貴方たちの幸せを願いたい)
(それが私の夢だよ…)





20100710
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