「なんなのよっ、もーーっ!!!!」
ありえないありえないありえないありえない!
私がいつアイツになんかしたっていうのか聞きたいくらいに腹立たしい。
わけわからない理由でこの肉はいけないだ、こんな酒を持ってくるお前の頭がやれおかしいだ…アンタはうちのボスかっつーの!
だいたいねぇ私は部下であって使用人じゃないのよ。
それを言えば必ずちらちらちらちら自分のナイフ見せびらかして脅すなんて…っ!
確かにアイツに殺されてきた奴らみたいになりたいわけじゃないし、もっともっと力を蓄えたい。
それにアイツの部下じゃなくて私はす、スクアーロ隊長の下につきたいから必死で生きようとしてるのよっ!
…先日そのやましい気持ちがばれてしまったけど。
でも、でもアイツよりはましよ!なんでもかんでもだってオレ王子だもんって終わらせるよりはね!
「もーっ!!!!自分でやれってのよ、ばあああああかっ!!!!!!」
「うししっ。それってだーれに言ってんのー?」
「え、?ひ、ひいぃいぃい!!!ベル先輩!!??」
「王子やっさしーから迎えにきたんだけどさー、馬鹿って誰のこと?」
「い、いえ、その…ですね…!」
嫌な汗が背中を伝って寒気を呼ぶ。
絶対にコイツはわかってる。
私が誰にたいして馬鹿って言ったか。
だってじゃなきゃナイフをちらちらちらちら見せないに決まってるでしょっ!
逃げようかななんて思考はあるものの逃げたりしたら多分10分も経たないうちに捕まって切り刻まれるのが落ちで、素直に謝ったとしても…以下省略の落ちよ。
第一、コイツが全ての元凶よ。
今日も今日とて呼び出されて任務をくれるかと思ったら毎度のごとく買い出し。
しかも今回は場所指定までしてきて、コイツはいつもいつも非番だとこっちをパシリに使って…!
本当何様よって感じだけど言ったら多分、オレ王子とか言うんでしょうけどね!!
そう考えると腹が立ってくるわ。
いつから立っていたのかも気になるけど死ぬ前くらい反抗してもいいわよね?
「べ、ベル先輩に、ですよ…!」
「へー言ってくれんじゃん」
「だ、だって仕方ないじゃないですか!私はヴァリアーなのに任務なんてもらえなくて、いつも雑用ばっかり!全部全部ベル先輩のせいじゃないですか!!!」
「しょーがないじゃん千代弱いもん」
「っ!弱くても、弱くても私は任務が欲しいっ!!強くなって力になりたい人がいるっ!!!」
「…あーあ。鈍感ってやだやだー」
「え、」
「千代が強くなったらカスアーロに引き抜かれちゃうじゃん」
それぐらいわかれよなー、なんて言いながら私の持っていた袋を取り上げる。
あの史上最悪なほどに王子王子ってこじつける奴が!?
あれ?でも、…そうだ。
前にもこんなことがあったような気がする。
いつもいつもいつも意地悪ばかりするこの王子は本当に稀に優しくしてくれる。
小馬鹿にしたように言うけど絶対に死ねとかそんな暴言、ベル先輩吐いたことないな…。
なんでかって考えたこともあったけど、確かお気に入りだからよって考えたんだ。
もちろん、…玩具としてだけど。
けど、さっきのこと考えるともしかしてベル先輩…。
「ベル先輩…」
「何してるわけー?王子帰りたいんだけど」
「その…さっきはすいませんでした。取り乱したりなんてして」
「王子やっさしーから許してやるよ。ししっ」
「ありがとうございます」
「んじゃ帰ったら夕飯作れよ」
「え!?料理長が作って…!」
「お礼もないわけ?王子かわいそー」
「うっ」
たしかにそうかもね。
ここは嫌だけど、ヴァリアーとして恥なような気もしないけどうんって頷いておこう。
そんな後ろめたい気持ちもありながら首を縦に振ればふわりと優しい笑みを浮かべるベル先輩。(もちろん目は見えないけど、口元だけよ)
こんな笑みもできるんだなんて思えるとベル先輩が本当に一瞬だけ普通に見えてしまう。
あーあ。
胸がドキドキしたなんて言えないわ。
「早くしろよなー千代」
「はい。分かってますよベル先輩」
まだまだ好きにはなれそうにないわ彼が。
けどちょっとは努力してみようかしら?
堕落王子様、
もう少しアプローチ上手にしてくださいね?
(じゃないと、好きにはなれないわ)
(ね?)
(王子様!)
20100516