「お見合いが決まったわ。」

母にそう言われたときは驚いた。この時代の20代などおばさんと呼ばれてもおかしくない年齢だ。そんな女を嫁に欲しいと言う者などただの物好きとしか言いようがないだろう。
聞いたところ相手もそれなりの年齢とのこと。しかし伊達軍でも高い地位に就いているらしい。
高い地位に就いている方…まさに両親が望んだような相手だ。



見合いを断ることは許さない


粗相をしないように


相手に気に入られるように


絶対に結婚するように



そんなことを母に言われた。









急なことで翌日に見合いだった。相手の方が忙しいためにその日しか空いていなかったらしい。

私は上等な着物を着せられ化粧をされ兎に角飾り立てられた。

見合い場所は城下にある料亭だった。相手が待っている部屋の襖の前に立ち、これから会う方のことを想像する。
それなりの年齢になるまで嫁を取らなかったのだからきっと顔か性格に問題でもあるのだろう。地位が高いということは日ごろから偉そうな態度を取る人かもしれない。
なんだか嫌なことしか想像できない。



私は意を決して襖を開いた。


そこに居たのは頬に傷のある強面の男性だった。その男性はどこか小十郎に似ている。まさかと思い、確認をする為に口を開く。

「千代、何をしているの。早く座りなさい。」

しかし母に遮られてしまった。私はしかたなく座る。

「この子が娘の千代です。」

母は私の紹介をし挨拶も程ほどにしてから1人喋り続ける。よほどこの縁談を纏めたいのだろう、相手の男性を褒めちぎる。

母が馬鹿みたいにしゃべるものだから相手の男は不快だろう。しかしそんなことを微塵も感じさせないような表情だった。

男性が口を挟んだのはお見合いが始まってから随分経った時だった。

「お嬢さんと2人きりにしていただけますか?」

「あら、やだ。私ったら気が利かないでごめんなさいね。ごゆっくり。」

母は部屋を出て行った。するとすぐに男性は立ち上がり私の許に来た。
座っている私と立っている男性──必然的に私は見下ろされる形になる。
とても威圧的でこの男性があの優しい小十郎だというのはあり得ないのだと思った。

男性は無言で私を抱き上げた。
突然のことで私の脳はその機能を一瞬停止させた。

『は、放して!』

男性の腕から抜け出そうと暴れる。

「大人しくしろ」

私は何故かその言葉に逆らえなかった。

男性は私が大人しくなったのを確認すると私を抱き上げたまま歩き出した。どこに行くのか気になったが聞けなかった。
男性は部屋を出て玄関に向かっていく。そこには彼のものであろう立派な馬が繋いであった。

私はその馬に乗せられた。男性は私の後ろに座り片腕で私を抱き込んだ。そして馬を走らせる。
馬に乗る機会がない私にはそのスピードは速すぎて怖かった。目を瞑り男性の胸元の着物を握ることだけが今の私にできることだった。





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