「暴力に訴えかけるのがいけないことってわかっていますか」
「はい。で、ですが10代目!!オレたちは10代目の身を按じて…」
「それは嬉しいですが、ですが正くんはそんなことをするような人ではありません」
「だってだって!わかんなかったんだもん!!」
「リボーン甘えてごまかさないでください。知らせなかった私も悪いですが、暴力を奮わなくてもよかったはずです」
「「「…………」」」
「わかってますか3人とも」
「「「……はい…」」」
場所は先程の商店街から変わり、小さな公園へと来ていた。
正一は現在進行形でおこなわれている説教を見ながら、先程吹っ飛んだ際に怪我をした擦り傷などを蒼空の濡らしたハンカチで拭いている。
目の前で繰り広げられる説教には思わず苦笑してしまう。
彼女は本気で怒っているときはたいてい敬語口調であり、ああいった母親じみた説教をする。
可愛らしいと思うが、それは全く違う。
普段優しく温厚なぶん、彼女がああやって怒ってしまうとそのギャップからかとても怖いのだ。
また、疑問符のない疑問を投げ掛けるため頷くしか選択肢がない。
そういったところが怖いのである。
現に、普段説教されないリボーンが蒼空にされている。
後にも先にも蒼空以外リボーンに説教できるものはいないだろう。
「あ、正くん。傷は…痛くない?」
「もう痛くはないよ。ありがとう」
「よかった…ごめんね、私の友達が…」
「いいよ。それに…」
「それに?」
「僕もあの人たちの気持ちがわかるから」
「?」
首を斜めに傾げてよく話を理解していない蒼空はやはり蒼空らしい。
正一から言わせれば好きな女の子が…と考えれば彼らのさっきまでの行動の意味がつく。
好きな女の子が他の男とデートまがいのことをしていたら腹が立つし、邪魔ぐらいしたくなるものだ。
それゆえの行動は正一自身わかっているつもりである。(山本はその気持ちが少しはあるが、リボーンと獄寺に関しては無自覚であるということを正一は知らない)
確かに殴られたことには理不尽さを感じるが、それでもやはり同じ男だからこそなにも苛立たない。
蒼空にはただの暴力(むろん誰から見ても暴力なのである)にしか見えないが、正一にはそう見えない。
故に互い違いをしているということである。
今もなお蒼空と話しているだけで睨むリボーンと獄寺を見れば正一はさっきまでの行動を受け入れるしかなかった。
「正くん?」
「なんでもないよ。あ、もう今日は暗いし帰ろっか」
「あ、うん。そうだね…」
日も暮れはじめ正一がそう提案すれば蒼空の顔が曇り顔へとなる。
そんな表情を見れば自分との別れを惜しんでくれているのだと思い、単純な男だからこそ嬉しく思ってしまう。
素直な気持ちを表現してくれる彼女に自分はあの者たちに比べれば一歩有利なのかなと考えた。
もとより幼なじみなのだから有利ととられやすいが、実際は逆だ。
幼なじみだからこそ越えられない壁というものが存在する。
だからその壁を壊すために日々努力しているのであって、こういった買い物も計算のうちだったりする。
入江 正一は案外計算高いのであった。
「入江…」
「あ、山本君」
「わりぃ、獄寺たち止めれなくて」
「いいよ。僕は気にしてないから」
「そっか?本当に悪いな」
「それよりも…」
「へ?」
「蒼空の機嫌治しを頑張った方がいいよ」
顔見知りともあり山本が正一へと謝罪にくるが、さっきの通り正一はなんにも気にはしていなかった。
最初は気まずそうにしていた山本も正一のその態度を見て無理矢理納得させたようだ。
だが、次の瞬間悪戯っ子のように笑う。
初めての表情に山本はポカーンとしていたが、正一が「ああ見えて蒼空は意地っ張りの子供だからね」と言えばわかったのか、苦虫を噛み締めていた山本の顔が笑顔に変わる。
案外山本も蒼空のそういった所を理解してたりするからだ。
それに今目の前でそれがされていれば誰だってわかるだろう。
「10代目!オレがお送りいたします!」
「…正くんと帰るので必要ないです」
「!!!?? じゅ、じゅうだいめーっ!!??」
プイッと横を向いて一切獄寺を見ようとしない蒼空。
まさかのその反応に獄寺は目を見開いて驚いている。
普段より呂律が回っていないのが、そのいい例だろう。
よほど蒼空にあしらわれたのが悲しいのか、あの獄寺が涙目である。
普段見れないギャップ故に苦笑しか浮かばない。(犬耳と尻尾が見えたのは偶像だと思いたい)
「ははっ、こりゃ気合い入れないといけないのな」
「そうだね。頑張って山本君」
ポンと何気なく置かれたその手が何を物語っているのか山本にはよくわかった。
頬をかきながら頑張るのな、と心で気合いを入れて今後のことを考える。
蒼空の機嫌が治ったのはその3日後であった。
ご機嫌ななめな彼女
(10代目〜)
(蒼空…)
(蒼空、ごめん)
(知りません!!!)
(((やっぱりまだ怒ってる…!!)))
20120412