なぜだか意味がわからなかった。
獄寺は言った。確かに自分は姉が嫌いだと。
しかし、ならばなぜ目の前にいるこの少女は獄寺が姉を嫌いではないと言い切れるのか、それは謎で仕方がない。


「なんでそう思うんですか?」

「だって口で嫌いって言えるなら心から嫌いじゃないですよ」

「心から…」

「はい。心から嫌いだったらそんなふうにいいません」


改めて獄寺は考えた。
自分は姉が本当に嫌いなのだろうかと。
−−答えは否だ。
嫌いではないのだ。
確かにあのポイズンクッキングを食べさせられるのは嫌だった。
気持ち悪くなる、苦しくなる、まったくいいことなんてない。

でも知っていた。
姉が毎回クッキーを作ってくれていたことを。
発表会が連続して行われても姉は必ず毎回作ってくれていた。
それはポイズンクッキングであった。
しかし、その当時の姉は無自覚だったのだ。
知らずに毎回毎回作ってくれていたのは、確かな姉の愛情だ。
獄寺に食べてほしい、頑張ってほしいという想いが込められたクッキーだ。
初めての発表会の日に姉は確かに獄寺に言った。


「隼人のために焼いたんだよ」


そうだ。
姉はあの日言ったのだ。
獄寺のために焼いたのだと。
それはいつだって弟を優しく見守ってくれている姉の姿であった。
忘れていたのだ。
あまりにもポイズンクッキングの悪夢を見てきたせいで。
いつだって姉は弟のためを想ってしてくれていたことを。


「オレ、思ってたよりもアネキが嫌いじゃないみたいです」

「うん」


前みたいに面と向かって話すことは無理だけど、でも嫌いになることはもうない。
恐怖もある、腹痛だって起きてしまう。
けど、姉の気持ちを知ってしまった以上嫌いになんてなれない。
好きなんて口からは言えないし、柄でもない。
しかし、心の中では感謝しよう。
この世に一人しかいない大切な姉なのだから。
そして、そのことに気づかせてくれた大切な守るべき人。

きっと他人にはない何かを持っている彼女。
最初見ただけでは気づきにくい平凡のようで平凡じゃないものを彼女は持っている。
人が当たり前のように持っていて、でも示せないそれをいつだって彼女は示す。
それがどんなに凄いことで素敵なことだと彼女は気がついていない。
まだまだそれでいいのかもしれないが。
きっと自分がこの人についたのは間違いではないと獄寺は核心した。


「やっぱり10代目は素晴らしいっス!」

「どうしたの急に!?」

「いえ、あ、そーいえばなんでアネキが10代目の家に?」

「実は先日から私のお姉ちゃんになって…」

「へ?」

「勿論、戸籍上とかじゃなく家族内的なやつです!」

「そ、そうっスよね!」


顔を上げればあわてふためく彼女と目があった。
彼女の言っている意味も分かってはいた。
なにせあの姉である。
きっとなにかあって彼女を気に入り妹にするとでも言い出したのだろう。(やはり姉弟なのかよく相手を理解している)
しかし獄寺は一瞬だけ思考が違った。
彼女が姉の妹=自分と婚約して姉の義妹になったと考えてしまったのだ。
なんたる失態だ!と思いつつもやめれないのは男の性としておこう。


「あ、今からおやつなんです。獄寺君もどうかな?」

「いいんスか?」

「うん!じゃあ私の家に行こう」

「はいっ!」


自然と差し出された手を握ってしまった獄寺。
それは沢田家に着くまで握られているのであった。
そしてまた、勘違いが起きたのもしかたないことであった。


姉にありがとう
(不純異性交遊は禁止だぞ)

(違いますリボーン!コレはっ!)

(す、すすいませんリボーンさんっ!)

(黙りやがれ獄寺!)






20100803
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