なにもかもが急だった。

そんなの俺様のいいわけに過ぎないけど本当にそうだった。
石田 光成が陽榎ちゃんに告白して、それで俺様が陽榎ちゃんを腕に閉じ込めたと思えばいつの間にかそいつに陽榎ちゃんがキスされてた。
それを見た瞬間、有り得ないほどのどす黒い感情が俺様の身体を駆け巡った。
腹の底から沸き上がり、身体を焼くような苛立ち。
目の前にいる石田 光成をぐちゃぐちゃにしたい−−あの付き合う前に行った初めてのデートで陽榎ちゃんがナンパされていたのを見たときと同じような感覚が蘇る。
腕を振ろうとしたとき陽榎ちゃんが走って逃げなかったら多分、いや絶対に殴っていた。


「追いかけないんですか先輩?」


嘲笑するその姿を見ると余計に殴りたくなった。
でも、それでもやっぱり俺は陽榎ちゃんが大切で自然と彼女が逃げてしまった方向へ走り出す。
追いかけなきゃ、安心させなきゃ、守らなきゃ、なんてことばかりが俺様を支配する。
俺様じゃ足りない部分がありすぎる。
でも、それでも俺様は陽榎が好きなんだ。


*********


走って、走って、走ればだんだんと見えてきた特徴的な金髪。
ああ、陽榎ちゃんだ。


「陽榎ちゃんっ!」

「ーっ!」

「! 待って陽榎ちゃん!」


俺様の声が聞こえその瞬間、彼女は逃げるように走り出した。
ただでさえ喘息持ちで危険なのにあんなふうに走ったら危ない。
それでも逃げるのに必死なのかどんどんスピードを上げている。
ダメだ、このままじゃ!と思ったときには俺様も全力で走り出して陽榎ちゃんを追いかける。
本来、男子と女子とでは足の速さも違う。
ましてや喘息持ちの女の子と俺様じゃ一目瞭然の結果だ。
直ぐに追いつけば乱暴だが、無理矢理その腕を掴んで俺様の方へと手繰り寄せる。
それでも暴れる彼女を見ると、悲しかった。


「陽榎ちゃん!」

「イヤッ!」

「陽榎ちゃん!!」

「触らないで佐助さん!」


ただでさえ走っていて呼吸も苦しそうなのに、それでも彼女も必死なのか叫んでる。
こんな状態じゃいつ過呼吸になってもおかしくない。
そんな心配もよそに彼女はゴシゴシと自分の唇を必死に必死に拭いていた。


「陽榎ちゃん…?」

「私、佐助さんに光成君とキスしてるの見られちゃった…!私は佐助さんだけとしかしないって思ってた!」

「……っ」

「こんなの、汚い!私がすごく汚い!!」

「そんなに拭いちゃ…!」

「私は佐助さんに嫌われたくないっ!!!」


そう言ってまた何度も何度も自分の唇をゴシゴシと拭く彼女を見て心が痛くなる。
無理矢理その腕を捕まえて拭くのを辞めさせれば唇が赤くなって軽く血も出てきていた。
陽榎ちゃんも必死でそんなこと気にしていない様子だけど、俺様は胸が痛い。
更にポロポロと宝石のように落ちてくる涙を見ると余計に胸が締め付けられた。


「私、私っ!」

「陽榎ちゃん…」

「見ないで、佐助さん…!こんな私、見ないで!」

「…っ」


顔を反らして全く目線を合わせない。
それでも唇は赤くて、涙はポロポロとずっと落ちてる。
そんな姿を見るのが俺様は堪えれなくて、陽榎ちゃんを壁へと押し付ける。
さすがにそんなことされるとは思っていなかったのか、驚いたように俺様を見ている。
さっきまで拘束していた腕を離して今度は頭を固定する。
ゆっくりと顔を近づければギュッと目をつぶってしまう陽榎ちゃん。
ズキンと胸はいたんだけどそれでもお構いなしに顔を近づける。


−−ペロッ

「!」


唇を舌で舐めれば陽榎ちゃんは急に目を見開いて俺様を見る。
そこで俺様も微笑めば困惑したように、不安げに俺様の顔色をうかがう。
お構いなしに俺様も陽榎ちゃんの唇をペロペロと舐めれば自分でも犬みたいだなって思う。
けど、それでもやめるつもりはなくてずっと舐める。


「さす、け、さんっ」

「陽榎ちゃん落ち着いた?」

「…はい」


口一杯に広がる鉄の味。
でもそれは、不快なんてものではないからとてもいい。
陽榎ちゃんを見れば少し唇が濡れていてちょっとやりすぎたかもなんて思う。
それでも落ち着いたみたいだからいいんだけど。


「陽榎ちゃん、俺様嫌いにならないよ」

「え?」

「大丈夫だよ。俺様、陽榎ちゃんにベタ惚れなんだから」

「あ、」


確かに嫉妬したし、怒れた。
けどそれでも俺様は陽榎ちゃんを嫌いになんてなれなかった。
逆にどうしようもないほどに惚れていて、別れるなんて選択肢はない。
だから不安になんてならなくていい。
俺様は離す気なんてないし、陽榎ちゃんを一生愛していくんだから。


「わかった?」

「………す……?」

「え?」

「また、キスしてくれますか?ギュッと抱きしめてくれますか?ずっと、傍にいてもいいですか?」

「−−当たり前なこと聞いちゃだめでしょ陽榎ちゃん…」


そう言う陽榎ちゃんを見て嬉しかった。
愛しかった。
俺様が好きになった子は世界で1番素敵な子だって自慢したい。
陽榎ちゃんを優しく抱きしめ唇に優しいキスをすれば、唇が離れたあとどちらともなく微笑んでしまった。
大好きな陽榎ちゃんはやっぱりかわいい。絡めた指先から伝わる熱に、唇から伝わった愛情。
それは確かに愛しいもので大切なものなんだって改めて実感する。


「陽榎ちゃん、愛してるよ」

「−−はいっ!私も愛してます!」



唇から伝わる
(確かにみつけた)
(あいじょう)








20100904
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