彼が嫌いかと聞かれたら答えは否。
それはやっぱり彼と過ごした過程が少しでもあるためだと思う。
けど、少なからず会いたくないと思っていたし、苦手だと感じてしまう私がいたのも事実です。
その理由はやっぱり昔に関係しているんだと思います。
「三成君…」
「…小学生以来か」
「うん、多分」
「そうか」
「三成君は今でも豊臣先輩を尊敬してる？」
「ああ、秀吉さんは今でも尊敬してる」
「そっか」
会話なんてまともに続かなくてなんだか居心地が悪い。
でもここで私がいなくなってしまえば三成君にも悪いことをしてしまうのでそんなことできない。
ましてや佐助さんを待たなきゃいけないのに、帰ることもできない。
三成君が去るまで待つしかないんです。
なんだか昔以上に関係が悪くなっているような気がします。
た、多分私のせいの率が高いような気がしてなりません…！
「陽榎は男子高になんのようだ？」
「人を待ってるの」
「ああ、宮本か…」
「うんん龍じゃないよ。違う人…」
「そ、そうか…」
歯切れの悪い三成君を見ると彼も昔のことを気にしてくれているのかもしれないなんて、淡い期待をよせてしまう。
それは本当に淡いものであっていいわけではないのに、なんで人って生き物は期待してしまうんでしょうか。
多分それが人って生き物に与えられた特権でもあるんだと思うんですが…私には理解しがたいです。
いい、悪いじゃなくて淡い期待なら期待をしたくない。
傷ついて、傷つけられてなにがよくなるか私にはわからない。
三成君も絶対に似たようなことを思っていると思います。
なぜかって聞かれたら、昔から彼を知っていて、仲良くしてもらっていたからだと私は答えます。
まあ、三成君が昔と変わってなかったらの話ですが。
「すまない」
「え、？」
「昔のことはすまない」
「あっ、もしかして…」
「あの日、そう言いたかったんじゃない。ただ、私はあまりに幼すぎて…」
「え…？」
あまりに悲痛そうに言う光成君を見て心臓がどきりと跳ねた。
光成君が言っているのは多分、あの日のこと。
そう言いたくなかった、なんて…じゃあなんて言いたかったの？
あの日確かに私は光成君の言葉にショックを隠しきれなかった。
じゃあもし、もしもあんなふうに言わなかったら、貴方はなんて私に言葉をくれたの、なんて問いたい。
今の私も、昔の私もあまりにも幼稚過ぎてわからないよ。
「光成君、」
「私はただ陽榎を…」
「……」
「陽榎を私が守りたかった！」
「え？」
「その気持ちは今でも変わっていない。陽榎、私は貴様が好きだ…！」
今、私は告白された…？
好き、それって動物とかに感じる愛情じゃなくて、人を愛する意味での好き？
そう考えてしまうとカァーと全身が熱くなってしまう。
なんですか、これ！？
ドキンドキンと高鳴るこれは佐助さんに告白されたときのものとは別のもの。
なんで、なんでなんて自分に自問自答してしまう。
私は佐助さんが好きなのに、なのに…！なんで光成君にときめいてしまうの？
こんなの私じゃないよ…！
「光成君、私…！」
「陽榎、私は…」
−−ぐいっ
「はーい、そこまでねぇ」
「なんだ貴様は！？」
「あんたこそ何様だよ。誰の女に手だしてんの？」
「あ…、佐助さん…」
急に暖かい温もりに包まれたかと思うとそれは大好きな佐助さんでした。
安心してしまう。
求めてしまう。
そんな優しい温もりが私を包む。
離さないようにギュッと抱き着けば、腰に巻き付いていた腕に力が入ったのがわかる。
ああ…やっぱり私、佐助さんが好き。
大好きでしかたがないんだ。
「あんたさぁ人の彼女に手、だすなんて最低だね」
「彼女…？貴様、陽榎の彼氏か、」
「なに？知らないわけ？」
「はっ。貴様など元より私の眼中にはない」
「言ってくれるね」
佐助さんの怒りが空気でわかる。
それでもギュッと私を抱きしめてくれることは変わらない。
それが嬉しくて、私も自然と佐助さんに身を預けてしまう。
「見てわかんない？俺様たちラブラブなわけ」
「知らん。貴様より私は陽榎の過去を知っている」
「！」
「陽榎」
「…光成君？」
−−ちゅっ
そんな可愛らしい音が私のすぐ傍で聞こえた。
唇に残っている感触に私はなにが起きたのか、理解してしまった。
私、光成君にキスされた…。
わかった瞬間、サァーと身体が冷たくなるのがわかる。
光成君に腕を引かれたとはいえ、私は佐助さんの目の前で他人とキスをした…。
周りに人がいないとはいえ、私…すごく最低なことを彼の前でしてしまった。
そう考えると足が震えて、振り返るのもとても怖くなっちゃう。
どうしよ、どうしよ！
こんなの、こんなの夢だよ！
夢って言ってよ…。
「あんた…っ！」
「陽榎、私の気持ちは決して変わらない」
「あっ…私、私っ！」
目の前の光成君も、後ろにいる佐助さんも今の私には見ることなんてできなくて、佐助さんの腕を振りほどいて急いで走り出す。
後ろで「陽榎ちゃん！？」と佐助さんの驚く声が聞こえたけど、私の中では逃げなきゃ、そんな思考しかなかった。
なにがよくて、なにがいけないか今の私にはあやふやで、好きって何なのかさえわからなくなってしまう。
ただ、あまりにも光成君の存在が急に大きくなって、佐助さんに罪悪感ばかり感じてしまう私がいるんです。
薄紫と橙
（ごめんなさい、ごめんなさい）
（そんな）
（陳腐な言葉しか言えないの）
20100903