朝日が射してきて、自然と瞼が上がる。
あったかいベッドの中から起き上がれば、昨日のことが鮮明に思い出される。
嘘じゃないのかと頬を抓れば痛みが走って、嘘ではないと思う。
制服に着替えて下に降りれば広がる温かい料理の匂い。
ああ、心が凄く満たされる。


「おは、よう」

「おはよう陽榎ちゃん」

「おはよう陽榎」


たったこれだけのことなのに嬉しくて、また涙がでそうになる。
昔から求めてた暖かい家族。
それが今、目の前にあると思うと幸せ。
ああ…佐助さんも最初はこんな感じだったのかな、って思う。
もちろん、同じ立場だからとか、同情とかで付き合ってるんじゃない。
好きだから付き合ってるんだよ。


「ご飯出来てるわ。さぁ、お弁当もあるから早く」

「うん」

「あなたも食べて」

「わかってる」


慌てて席に着けばお父さんもお母さんも席に着く。
それが幸福なんだってわかる。
何気ない毎日を過ごすって凄く素敵なんだってわかるよ。


********


「じゃあいってきます」


今まで淋しかった挨拶も今日は返事がかえってくる。
ああ、こんなにも幸せでいいのかと思ってしまうほどに。
えへへ…幸福で死んでしまうってこういうことなのかな。
それだったら幸せだな。


「はい、お弁当」

「ありがとうお母さん」

「いいえ。あ、それから陽榎ちゃん」

「え?」

「これは内緒よ」


お弁当を受けとってバックに入れながらお母さんの話しを聞いていれば、お母さんは内緒話をするときによくする、人差し指を立てて口に当てる仕種をする。
なにを今から話してくれるのかワクワクしながら耳を傾ければ、それはあまりにも驚くべき内容だった。


「お父さんね、海外に居ても何度か日本に貴女を見に戻ってきたのよ」

「え」

「お仕事も早く終わらせてこれから日本で生活できるように頑張ってたの。それに、海外で貴女の病気について治す方法も探してたわ」

「っ、」

「お父さんも私もそうだけど、貴女のこと大好きなのよ。自信をもって言えるわ。陽榎は愛されて生まれたのよ」

「う、うん…!」


泣くことは必死に我慢した。
けど、とても嬉しくて、幸せで…昨日の自分が嫌になる。
心のどこかではわかっていた。
お父さんもお母さんも私のことを愛してくれていたって。
どこかに出掛けてもすぐに帰ってきてくれてるの知ってた。
海外に行ってても電話をくれてるの知っていたよ。
だけど、私の胸の中にぽっかりと開いてしまったこの穴はなかなか埋めれなくて悪態しかつけなかった。
本当はずっとずっと、淋しかっただけ。
本当は…−−。


「私、お父さんとお母さん、お兄ちゃんが大好き!」


笑顔でこう言いたかったんだよ。


*********


あれ以上あの場にいたら恥ずかしくてしかたがないので走って家を出ていってしまった。
喘息もあるから、起きない程度に走ればいつもの待ち合わせ場所が見えてくる。
そしてそこに立っている大好きな彼氏。
幸せを噛み締めるかのように笑う。
普段ならここで止まるんだけど、今日は全力で彼に向かって走る。
驚いたようにこちらを見る佐助さんに、私はまたはにかむ。


「佐助さん!」

「うぉっ!陽榎ちゃん!急にスピードあげちゃダメでしょ!!!」

「えへへ!」

「、幸せそうだね」

「はい!」


最初は怒っていた佐助さんも私の顔を見て優しい表情になる。
ああ、こういうことが更に彼を愛してしまう。
受け止めてくれた彼の腕の中でまた笑う。
そして同じように微笑む佐助さん。
道の真ん中でなにしてるのかなって思う反面、離れたくないっていう思いがあるのも事実。
こういうのがバカップルって言われちゃう原因なのかな?


「佐助さんのおかげです」

「へ?」

「佐助さんのおかげでお父さんとお母さんの愛情がわかりました!ありがとうございます!」

「…同じだよ陽榎ちゃん」

「え、」

「以前陽榎ちゃんは俺様に同じことを与えてくれた。今回、俺様はそれを陽榎ちゃんに与えただけだよ」

「っ!」


なんで私の周りの人達はこんなにも優しいんだろう。
なんでこんなにも愛してくれるんだろう。
すっごく嬉しい、幸せだよ。


「俺様、昨日陽榎ちゃんのお父さんに言ったけど、一生護るよ」

「はい」

「絶対に幸せにする。だから、」

「、はい」

「俺と未来を歩んでください」

「っ、はい!」


辛いことも、悲しいこともこれからの先でいっぱいあると思うの。
でもね、それと同じように楽しいことも嬉しいこともいっぱいあるよ。
喧嘩だってするかもしれない。
これから変わってしまうこともあるかもしれない。

それでも、たくさん泣いて、たくさん怒って、たくさん笑って、周りが呆れるくらいに幸せでいて、ハグをして、キスをして、大好きって伝えるの。
それは、おばあちゃんやおじいちゃんになってもそうでありたい。
貴方という大切な存在に巡り会えたからこそ、有り得る現実なの。


「ねぇ佐助さん」

「ん?」

「初恋って実りますね」

「当たり前!俺様と陽榎ちゃんだからね!!」


私、貴方に恋をしてよかった。
これからもよろしくお願いします、佐助さん!




(ずっとずーっと初恋だよ)
(だって…)
(貴方との毎日はハジメテがいっぱいだから)







20110709 The end!!
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