「佐助さん。今日は本当にありがとうございます」

「いいって!俺様も陽榎ちゃんとデートできてうれしかったよ」


そう言ってニコリと笑う佐助さんを見て私の心は暖かくなってしまう。
付き合ってもう一ヶ月も経ってしまった。
本当にあっという間で、毎日がとても色鮮やかでした。
そして今日はデートだったんです。
それは、付き合って一ヶ月記念の。
とても楽しくて、凄く幸せでした。
こんな毎日が続けばいいな、って。
いいえ、続けたいんです。
きっとそれは佐助さんがとっても好きであるという証拠だからだと思います。


「じゃあまた明日、ね」

「はい!」


手を振ってるものの佐助さんとの別れが辛いのも事実。
本当にデートの後の別れは嫌。
ずっとずっと側に居たいと思ってしまうから。
なんとかその気持ちを押さえながら玄関に向かう。


「あれ…?」


鍵をかけたはずなのにかかっていなくて思わず首を傾げてしまう。
なんでだろう、なんて思ったけど直ぐさま理解してしまった。
帰って、きたんだ。
彼らが…!慌ただしく家の中に入れば、案の定彼らはいた。


「陽榎ちゃん!お帰りなさい」

「お母さん…」

「連絡なしでごめんな。久々に暇ができたんだよ」

「お父さん…」


明るいお母さんに朗らかなお父さん。
女優であるお母さんを綺麗だと思うのは当たり前ですが、お父さんもそこそこカッコイイ部類に入る人だと思います。
改めて二人を見ると本当に血が繋がっているのか、私でも不安になってしまいます。
そんなことを考えてしまう私は、娘失格なんでしょうか。


「陽榎ちゃんはお友達と遊びに行ってたの?」

「え、あの…その…」

「陽榎…?」

「遊びには、行ってたんです…」


言えない。
お父さんとお母さんに佐助さんのことは決して言えない。
言ったらきっと、すべてがダメになってしまう。
それだけは…避けなきゃ…!


「そんなにおめかししてるから…もしかして彼氏さんかしら?」

「え!?」

「…まさか、彼氏が本当にいるのか?」

「っ…」

「別れなさい」

「−−!」

「陽榎にはまだ早い」

「孝司さん…」

「おまえは黙ってろ!」


サァーと体中から血の気が引いた。
尋常ではない震えに、なによりも冷や汗がとまらない。
−−わかっていた。
お父さんは私がお兄ちゃんみたいに優秀ではないから、恋愛に現を抜かしているのを知ったらそう言うのは安易に想像がついていた。
それでも、やっぱり信じたかった。
お父さんなら佐助さんのことを認めてくれると心のどこかで思っていたの。
望みなんて少ないってわかってはいたけど、それでもお父さんだから。
少しでも信じたかった。
けど、今も尚怒鳴り続けるお父さんを見ると…今まで溜まっていたものが爆発しそうになる。


「陽榎も子供じゃないんですから…」

「まだまだ陽榎は子供だ!それに、そんな暇があるなら夏樹に追いつくように勉強をしろ!」


−−その言葉ですべてが崩壊した。


「いや…」

「…なんだと」

「絶対にいや!!別れたりなんて絶対にしない!!」

「言うことを聞け!!おまえは俺の娘だろ!!!」

「別にあなたたちの娘なんかに生まれたくなかった!」

「−−!」


ずっとずっと独りぼっちだった。
幼いころからお兄ちゃんは一緒にいるって言った。
けど、部活や友達の付き合いでほとんど家にいなかったし、それにお母さんとお父さんと買い物に行ってた。
お母さんだって私のこと見てくれてたけど、お兄ちゃんとの扱いの違いだって知ってた。
お父さんは絶対に必要最低限のことしか私と話さなかった。

家族ってなに?
喘息持ちって、それだけで扱いが違ってしまうものなの。
お兄ちゃんが大学に行ったら家を出て、仕事に行ってしまうような人達が両親で家族なの。
わからない。私には全くわからない。
家族といるよりも佐助さんや龍たちといる方が楽しいんだよ。
そんなのおかしいよ。


「私のこと、なんにも知らないくせに!」

「陽榎!」

「今更…親ぶらないで!!私のこと娘なんて思ってないじゃない!」

「そんなことないわ陽榎ちゃん!私たちは…」

「じゃあ喘息持ちの私を一人暮らしさせるのが親なの!?ただ私が邪魔だったんでしょ!」

「おまえはなんてことを…!」

「私は生まれたくてこんな家に生まれたんじゃない!嫌い、嫌い嫌い!!お父さんもお母さんもお兄ちゃんも大っ嫌い!!!」

「!、待て陽榎!」


こんな、冷たい家族なんて嫌い。
なんで…こんな家に生まれちゃったの?
どうして愛してくれないの…!



わからない
(あなたたちなんて大嫌い!)






20110430
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