苦しみよりも哀しみを | ナノ
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***



「あ……スバルくん」


月明かりが差し込む窓辺に佇むスバルくんを見つけ、私は思わず名前を呼んだ。

すると、赤い瞳が私の方へと向いて細められる。

暗闇の中に浮かぶ、その“赤”に吸い寄せられるように近づくと、スバルくんの腕に引き寄せられた。

「……お前、怖くないのかよ」

耳元でスバルくんがそう言ったが、不思議と、怖いという感情は湧かない。

「……全然……スバルくんは、全然怖くない」

私がそう言えば、スバルくんは私の首筋に指を這わせ「……馬鹿か」と呟く。

馬鹿と言われても、怖くないものは怖くない。

首筋に牙が食い込むのを感じ、その後直ぐ、皮膚を貫く痛みが体中を駆け抜けた。

「っ……」

血が抜けていく感覚に、体が熱を持つ。

その熱でさえも愛おしいと感じるのは、私がスバルくんを好きだからだろうか。

熱に浮かされている半面、どこか冷静な自分が自分に問い掛ける。



「……おい」

「……?」


いつの間にか眉間に皺を寄せたスバルくんが、私を見下ろしていた。

赤い瞳が私を射抜くようにジッと見つめ、私の動き全てを封じてしまう。

「何を……考えてた」

「……何も」

嘘をついた。

絶対にバレると知っているはずなのに。




ただ、この後に待ち受ける、悦びのために。


嘘をついた。



***


「っ……はぁ」

痛みに遅れをとって快感が体をかけぬける。

飴と鞭のように繰り返される、その行為がいつからか私の悦びになっていった。

「……マゾが」

耳元で囁かれる声に、びくりと反応すれば、スバルくんの口角が上がり、私を射抜く赤い瞳が情欲に燃える。

その表情と視線に、私は、また悦びを感じてしまう。

「スバルくん……









「好き」









***






「スバルくんっ……スバルくんっ……」


呼んでも無駄だとわかっている。

輝く刃から滴り落ちる赤がその証拠だ。

「ごめんなさい……」


私は、狂ってる。

好きなのに。

好きだったのに。



彼を殺すことでしか、自分を取り戻す術を知らなかった。


「……好き……好き………愛してるの」


なぜ殺さなければならなかったのかなんて、自分でも理解していない。

だけど、私の本能が悲鳴をあげていた。


苦しみたくない。







「スバルくん……好き……」















この先に

幸せがあるだなんて

思っていない

だから、せめて哀しませて














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