愛を求める
君のメロディー
☆☆☆
遠くで聞こえるピアノの音。
それは、愛を語りかけるように情熱的で心を揺さぶる。
「……春歌…?」
深夜にあった仕事が早朝に終わりソファで仮眠していると、開け放っていた窓からピアノの音色が微かに聞こえてきた。
時計を見ると長針が 7を指していて、二時間ほど寝ていたことを知らせる。
(このメロディーは、彼女以外ありえないね)
流れるメロディーは、愛の夢というクラッシック曲にアレンジを加えたものだ。
こんなアレンジが出来る人は、彼女しかいない。
ドラマチックに盛り上がる終盤になり、これでもかというくらい情熱的にピアノが歌う。
(……こんなのを聴かされたら、会いたくなる)
聞こえてくるこのメロディーが彼女からの愛の囁きのようで、彼女を抱き締めて愛を囁きたい衝動に駆られる。
「………ははっ」
俺がこんな風に誰かに会いたいと思うとは、驚きだ。
こんな感情、彼女に出逢わなければ感じることができなかった。そう思うと彼女への愛おしさがこみ上げてくる。
ソファから立ち上がった俺は、驚くであろう彼女を想像し、ソファに掛けてあったジャケットを取って彼女の元へ急いだ。
☆☆☆
目を瞑ったら、そこにいるのは彼。
彼への愛おしさが私の体を支配して、何をしてても彼を想ってしまう。
「………レン…さん」
彼の前では恥ずかしくて呼べない下の名前を小さく呟けば、好きが溢れ出してくる。
さっきまで弾いていたメロディーも、彼への愛だけで出来上がった。
ここまでくると、私は重症かもしれない。
「…会いたい…」
お互いに仕事が忙しくなって会う時間が減っていく、そのせいで募る不安と愛しさは積み重なって溜まっていった。
ピアノの前で深いため息を吐き出せば、ピンポーンと来客を知らせるベルか鳴る。
こんな朝から誰だろうかと不思議に思いつつ玄関のドアを開ければ
「……おはよう。春歌」
会いたくて仕方がなかった彼が、目の前にいた。
☆☆☆
目の前にいる愛しい彼女は、目を丸くして固まった。
そして、
「……レンさん」
と俺を下の名前で呼ぶものだから、不意打ちで俺は驚かされる。
久々に会った彼女は変わらず、可愛らしく純粋な瞳を輝かせていた。
そんな彼女に、俺は思わず抱き締めてしまう。
そして、同じように抱きしめ返してくる彼女に、玄関先だということも忘れ、軽いキスをプレゼントする。
「っ!?レンさん…」
「会いたかった………」
戸惑う彼女を無視して首筋に顔を埋めれば、彼女の匂いが俺を包み込んだ。
「……私も…会いたかったです…」
小さな声でそう言った彼女の手は震えていて、俺は反射的にその手を握り締めた。
美しいメロディーを生み出す小さな手にキスをし、赤く染まる彼女を見つめる。
「……愛してる……春歌…」
☆☆☆
囁かれる愛の言葉に、酔ってしまったかのようにクラリと目眩がする。
低く色っぽい彼の声が鼓膜を震わせ、体に甘い電流を走らせた。
「……レンさん………好きです。…………離さないで下さい」
私の手を握る彼を見上げれば、グイッとそのまま手を引かれ、唇が重なる。
「んぅ……」
息すら呑み込まれるような深いキスに、脳は痺れ、体は疼く。
苦しくても離れる気にはなれず、時間を忘れる程長くお互いの熱を伝え合った。
「………春歌…」
「…はぁ…はぁ…レンさん……もっと…下さい…」
触れ合えば触れ合う程、求めてしまう。
それは、甘い媚薬のようで、離れることが出来なくなる。
「……君が満足するまで……いくらでも」
耳元で感じた彼の吐息が、この後待ち受ける行為の熱さを教えていた。
俺の腕の中で
君は、愛の歌声を聴かせてくれる