神よ あなたが産み落とした子羊よ
苦しみに燃える魂が あなたから身を与えられん
今 解き放たれし者は
尽きることなく 哀しみを抱えよう
─
「っ……ライト…くん」
「なぁに?…ビッチちゃん」
血を吸われる感覚に、体から力が抜けていく。
私を前から抱き締め首筋に牙を食い込ませる彼を呼べば、嬉しそうに応えてくる。
「……もぅ……無理…です」
途切れそうな意識を必死に手繰り寄せ、彼の手を弱々しく握った。
すると、彼は私の意志を無視するかのように、今以上に鋭く牙を食い込ませる。
「っ!?」
痛みが全身を駆け巡り、零れ落ちそうな涙を堪えると、彼は首筋から離れて私の顔へと視線を向けた。
「……ビッチちゃん…いいよ、その顔……物凄くそそるよ……」
恍惚とした表情で私を見つめる彼に、私は狂気しか感じない。
最初の内は感じていた恐怖や憤りなどは、今はもう消え去っていた。
ただ、虚しさだけが私の心を揺さぶる。
「……………何で、そんな目をしてるの?」
意識が朦朧とする中、目の前にある彼の顔が辛そうに歪んだ。
自分では、どんな目をしているのか分からない。
「……ラ…イト……く…ん」
彼の名前を呼ぶのが精一杯で、他の言葉を話す力が残っていない。
溜まっていた涙が零れ落ち、重く怠い体に叱咤して腕を持ち上げた。
「…………なに?」
幼い子供のように不安そうな顔をする彼の頬に手を添えた。殆ど力が入っていないため、指先が少し触れるだけ。
そして、その手を支えるように彼の手が重なる。
(そんな……不安そうにしないで)
その言葉を彼に言いたいのに、出てくるのは涙ばかり。
もし、違った運命の下で彼と出逢っていたなら、彼と私の関係はどうなっていただろう。
「………ねぇ……ビッチちゃん?」
「……ライ……トく…ん……ラ…イト…くんっ……幸…せに……なろ…?」
自分でも何を言ってるのか、訳が分からない。
けれど、意識が無くなる前に言っておきたかった。
私が望んでいるのは、あなたとの幸せだと。
ひとりで幸せになるつもりも、あなたから離れるつもりも、私の中に存在しない。
あるのは、あなたの存在だけだと。
「……ビッチちゃん……………
……………………………ユイ」
***
「……」
頬にあった彼女の温もりがオレの手から零れ落ちる。
代わりに、違う温かさが頬を伝った。
その正体をオレはよく知ってるが、理由は分からない。
彼女は、ベッドで死んだように眠り、涙を零し続けていた。
「……幸せってなんだろうね?………オレには分からないんだよ。生きる意味も……………君と幸せになる意味も」
彼女が慈しむような目でオレを見た時、忘れ去ったはずの場所が締め付けられるように苦しく、止めどなく押し寄せる不安が消えなかった。
それは、オレにとって彼女が特別だという証だ。
「………お願いだから、拒絶しないで」
オレが君を離したくない、それだけは確かなことで、変わることのないオレの真理。
狂気を孕んだ瞳を向けるのは、ただひとり
彼女だけ。
─
おお神よ! 救える者を救うだけか?
迷い 慈しみの涙を流す者を見放してしまうのか?
あなたは慈悲深いはずだ!
なら 彼の者を救いたまえ
愛と幸せ
その名も知らぬ 彼の者の為に