俺にだけ


「グロー」

 恋焦がれる子の口から俺の名前が溢れる。耳が幸せとはこういう事だろうか。俺はにやけながらもそれを咳払いして誤魔化しながら、声がした方へ振り向く。

「クリマ、なんだ?」

 ほんの数センチしか離れていない場所にクリマはいた。俺の肩を借りるかのように身体を預けていた。
 雨がいきなり降ってきて、ちょうどいい所に雨宿りできそうな大木があったので俺とクリマはそこで雨が止むの一旦待つことにした。

「ちょっと、寒い……」

 雨に濡れてしまったのだろう。微かにカタカタと寒気を感じているようだ。
 布が濡れて素肌にくっついており、体のラインがクッキリとわかってしまう事に気づいた俺は顔が熱くなるのがわかった。

「グロー? どうしたの?」

 動きが止まった俺を不思議に思ったクリマは顔をのぞき込んでくる。その間も俺は彼女の体に釘付けになっていた。豊満な胸に……

「ほ、ほら。俺そこまで濡れなかったから上着着てろ」

 そうしないと俺の理性が持たない。

「ありがとう…グローの、暖かいね」

 俺の上着を借りてニヘラと笑うクリマを見て、心臓が高鳴る。抱き寄せたいと思って差し出した手をすぐ引っ込めた。


 

――あいつには見せない表情を、俺にだけ……いまこの時だけ……見せてくれ

 
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