去り行く姿


 僕は父さんの姿を覚えていない。

 セツナ達が村を襲ってきた時、魔鏡に映った姿でしか父さんを見た事がないくらい、わからなかった。

 父さんは、今の僕とは程遠い存在。だって神様だし。クリマと同様に人間に姿を変えた神様なんだ。それを言ったら、僕も普通ではない。神様の血を受け継いでいるから。そうでないなら、ユストゥスを扱えるハズがないから。

 だけど、そんな偉大な父さんとの記憶は……あまりない。だけど一つ、たった一つだけど覚えている事があるんだ。


「お前も強くなれ」

 そういった父さんは自分の額に括りつけていたバンダナを僕の額に巻き付けてくれたんだ。

 父さんの姿はもうぼやけてしまっているけど、唯一父さんを思い出せる大切な思い出。


 きっと。きっと父さんはこうなる事を予測していたんだと思うんだ。村を守るために自分が犠牲になって……だから僕に、強くなれって言ったんだと。

 父さんの小さな願い。それは今では僕自身の願いになったんだ。
 全てとは言わないよ。僕の手が届く範囲は守りたいんだ。

 そのために強くなりたい。もっともっと――


 そんな今の僕を形作ってくれた父さん。この日だけは父さんを思い出してもいいよね。


父さん、貴方にいつか追い付いてみせるから――

 
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