06 -如月視点-
「腹は?何か食う?」
リビングの真ん中に突っ立ち、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回す少年に問う。聞こえてない訳じゃないだろうが、彼からの返事はない。
食欲がなくてもなにか食べた方がいい。風呂で見た痩せ細った少年の体を思い出す。…とはいえいきなり高カロリーなものを摂るのは腹を壊しかねない。冷蔵庫を漁ると、買い溜めしておいた冷凍うどんが目についた。うどんなら比較的食べやすいか。
なんだかんだでとうに日付けをまたいでいることを知り、とりあえず今日はうどんで簡単に済ますことにした。
「ほら、こっち」
うどんが出来上がると、少年を自分の隣に座らせる。湯気の上がるうどんの入った器が気になるのか、じっと見つめながらくんくんのと鼻を動かした。
どのくらいの量を食べるのか分からないから、自分のうどんを少しずつ分けてやることにした。小皿に少し取り、箸と一緒に少年の目の前に置いて促す。
「食っていいよ」
「……これ、なに?」
「え?」
すると少年はきょとんとしたまま首を傾げた。うどんと俺の顔を交互に見ながら何度も匂いを嗅いでいる。…まさか、うどんを知らないのか。というか、うどんを知らないでむしろ今までなにを食べて来たのか。
「普段なに食ってたんだ?」
「…かたくて、ちいさくて、くさい…?なまえ、しらない」
固くて小さくて臭い?なんだそれ。サプリメントの類だろうか?それに自分がなにを食べていたのかも分からないって、どう考えてもおかしい。異常だ。
「それ、美味いのか?」
「うまい?…しらない、けど、きらい」
「嫌いなのに食ってたのか?」
「…ずっとそうだった、から」
どうやら彼は相当な扱いを受けていたらしい。嗜好の概念もなく、ただそれだけを食べさせられていた、なんて。…それからもうひとつ気になるのが少年の話し方。微妙に噛み合わないし、ぎこちない。言葉を覚えたての幼児のような、幼い子供と話しているような気分になる。
しかしどう見ても彼は10代。思考も行動も幼すぎるのだ。
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