精一杯をタルトに込めて
「…はあ」
目の前の黒焦げた塊を見てため息を吐く。
本日数度目のそれを、一口かじって眉を寄せた。
ぼそぼそと苦く、とても食べれるような代物ではない、タルトになるはずだったもの。
仕方なくゴミ箱に放って、もう一度作り直すべくレシピを手に取った。
数時間後に迫る彼女の大切な日。
『私ね、苺がたーっぷりのタルトが大好きなの!』
いつだったか、カフェでストロベリータルトを頬張りながらそう言っていたのを思い出す。
「…よし」
どうしても彼女の喜ぶ顔が見たくて、俺は気合を入れ直してタルト作りに取り掛かった。
ーーピンポーン
インターホンを押して数秒、中からドタバタと足音が聞こえた。
そわそわと落ち着きなくタルトが入った箱を確認しながら待っていると。
「はーい…って、あれ?どうしたの?」
家の前に俺の姿を見て不思議そうに首を傾げた彼女は「とりあえず上がって!」嬉しそうに俺を中へと促した。
「急に来るからびっくりしちゃった!はい、コーヒーでいい?」
お気楽な彼女は今日がなんの日か、すっかり忘れているようで。
「…ほら」
「えっなに!?」
不器用ながらに一生懸命頑張ってラッピングした箱を差し出すと、目を丸くしてそれを見つめた。
「今日、なんの日か忘れてんの?」
「う、ううん…」
まだピンとこないのか、唸る彼女に箱を開けるように促してみる。
「これ…苺の、タルト?」
「…悪いな、不恰好で」
「ええっ!?手作り!?」
タルトと俺を交互に見ながら、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「…誕生日、おめでとう」
なんだか急に気恥ずかしくなって、つい視線を逸らしたままで呟いた。
「……ありがとうっ」
声を弾ませた彼女は、カフェの時よりもずっと幸せそうに笑っていた。
…ああ、やっぱり。
彼女の笑顔に、つい数時間前の苦労なんて吹き飛んでいた。
「大切な日なんだから。忘れんな」
「うんっ…!大好き!」
ぎゅうっと俺にしがみつく彼女から、ほのかに苺の匂いが香った気がした。
君を想って作ったタルトで、俺の想いが残らず伝わりますように。
(…来年も食べろよ)
(もちろんっ)
うるみん HAPPY BIRTH DAY!
心から愛を込めて。
2014.05.13
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