140log



▽悪党と悪党の140字

昔馴染みにぼちぼちお迎えが来そうだと聞いて顔を拝みに行ってみた。「調子はどうだ?」と訊くと「まぁまぁだ。次に会うのは天国だな」と薄く笑うので、「お前は天国に行けると思ってんのか」と笑ってやる。「あぁ、そうだ。そうだな」とククッと微かに喉を鳴らしたソイツに「じゃあな」と背を向けた。

2015/12/02 08:30




▽いい肉球の日の140字

カタリと音がして「なんだ来たのか。珍しいな」と声をかけるが返事はない。文机の上の煙草に手を伸ばした。背中に気配を感じながら小さく笑う。煙草を咥えて火を点けるか点けまいか逡巡する。「なァ」と声がして、フヨンと白い毛が揺れた。コロンと膝に寝転んだソイツの肉球をフニフニと押してみた。

2015/12/02 08:29




▽10月10日の140字

トロリと今にも滴り落ちそうな蜂蜜色した月が藍色の空にプカリと浮いている。「……でけぇな」と呟いてから、きっと気のせいと苦笑しながら頭を掻く。フッと息を吐いて、ここにはいない馬鹿に向かって「ばーか」と言ってみた。アイツに届く訳がない。どこにいんだろな。ボンヤリと蜂蜜色の月を眺めた。

 *

噎せるような甘ったるい匂いに思わず眉を顰めた。パラパラと地面に零れている橙色の小さな花を見つけて、相変わらず馬鹿のまんまの男を思い出す。風が吹いて一瞬匂いを掻き消した。「馬鹿な野郎だ……」そう呟いてから、酒でも飲むかと甘ったるい匂いのそれをひと枝手折って秋の陽光を背に歩き始めた。

 *

山の稜線にほんの少しだけ夕焼けの名残が残る藍色の空を見上げるとポツンと瞬く星を見つけた。「……なんだ月は出てねェのか……」ポケットを弄ってクシャクシャになった煙草の箱を取り出した。折れ曲がった煙草を咥える。前に会ったのはいつだったかなと、あの夜に見たまんまるだった月を思い出した。

 *

「ご馳走さん」と声をかけ、暖簾をくぐって外に出る。冷たい風に肩を竦めた。群青色の夜空に薄くかかった雲は街の灯りに照らされ、空との間に橙色の薄い膜を張っている。月を探してみたが見つからない。風に運ばれフワリと匂った甘い香りに苦笑いしてから嘆息すると、早足でガキの待つ家へと急いだ。


2015/12/02 08:28




▽熱帯夜のおっさんへのお題

「先に行くぜ」「おぅ、カネ置いてけよ」「…あぁ」一瞬の間があって不機嫌そうな声が返ってきた。こちらに背を向け身仕度を整える男にバレないように溜め息を吐く。「まだ仕事あんの?」なんでもないふうに訊く。「まぁな」「…そりゃお疲れさん」嘘ばっかり。蒸し暑い夜に冷たい部屋で独り丸くなる。

(『やさしい嘘』)


2015/12/02 08:16




▽雨宿り

街路樹の下で雨宿りしていると「あ、洗濯物がぶら下がったまんまだ」と新八がベランダを指差す。「せっかく洗濯したのに台無しネ」神楽があ〜ぁと歎息してみせた。よっこらせと立ち上がる。「銀さん?」「んあ?とりあえずピンポン押してくらァ」新八に片手を挙げそう応えてから小走りで通りを渡った。

2015/12/02 08:11




▽おっさんのごはんのお題

そこにいるはずのない男が海苔巻きをかじりながら胡乱げな眸でこちらを見ている。男は「コンビニ出たら沖田に捕まった」と表情を変えずにそれだけ言った。秘密を持つ後ろめたさとでも言えばいいのか、いつもならただ眠そうなだけのこちらを見ている眸が何もかもお見通しのような気がして背筋が冷えた。

 *

壁の時計を見上げるとちょうど3時だった。台所にポツンと置かれた小皿のラップを剥がしてさばの煮付けをつつく。「オイ」という低い声に「何?」と面倒くさげに問えば、「ヤらせろ」とギラギラとした目でこちらを睨む。まるで発情期だなと呆れつつ「イミがわかんねーんだけど」と睨み返してやった。

 *

子供を残してフラリと外に出た。群青色の夜空に月はない。ポツリ、ポツリと弱々しく星が瞬く。ぼんやりとした提灯の灯りに誘われて暖簾をくぐった。「月見そば」とぼそりと告げる。月を見上げて誰かのために祈ったのはいつだったっけ。ドンッと目の前に置かれた月見そばをズルズルと音をたて啜った。

(【間食/冷えた/海苔巻き】【おやつ/発情期/さばの煮付け】【夜食/誰かのための/月見そば】)


2015/12/02 08:09




▽真夏のおっさんへのお題

「まぁ飲めよ、土方くん」と酒を勧める機嫌のいいその男を訝しく思いながら、親しげに肩にまわされるその腕に何か期待めいたものを感じてしまう。注がれた酒を一気に呷れば、「いい飲みっぷりだね〜」と目を細めた。その顔に思わずドキリとしたのは今が夏で俺は酒を飲んでるからで他意はない。夏は罪。

(『たかなる胸』)


2015/12/02 08:07




▽桃

「なんかエロくね?」隣で桃を貪り食ってるソイツが喋り始めた。ダラダラと果汁を滴らせながら「コイツらって甘い匂いで誘って、こやって汁を滴らせて、種を運ばせんだろ? これも一種の性欲ってヤツなんかね?」ベッタベタだなとボヤきながら口を拭うお前がエロいと、いろんなことをグッと堪えた。

2015/12/02 07:44




▽夏の土方さんへのお題

目の前を通り過ぎた影を追う。黒い雲に覆われた不穏な空に吸い込まれていったのは鳥だった。空を見上げたまま煙草を咥える。ライターの火を掻き消す強く冷たい風に脳裡をよぎったのはあの白い姿だった。ゾクリを背筋を冷たいものが走り、ヤバいと思う。ギリリと咥えた煙草を噛む。クソッと舌打ちした。

(「黒」「鳥」「自己防衛」)


2015/12/02 07:39




▽土方さんへのお題

ああ言えばこう言う。口から生まれたってのはこういうことを言うんだろう。嘆息して煙草に火を点ける。隣をチラリと見やると、こちらを横目で睨みながら唇を尖らせ、まだ何やら言い募っている。「俺が悪かった」と言えば、ソイツは満足そうに笑った。負けるが勝ちってやつかと空に向かって煙を吐いた。

(「幸せ者の敗北宣言」 http://shindanmaker.com/160701 )


2015/10/12 11:48



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