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ワカメとぜんざい、ときどきオクラ2




残された時間が一週間。
そんな共通点と、売り場が近いということもあって、俺、白玉ぜんざいとワカメは少しずつ話すようになった。
縁なんてものは良く分からないもので、絶対に関わらないだろうと思っていた奴ともこうして話すようになってしまったのだから笑ってしまう。

「お前ずっとそこで寝とるから絡みづらい奴や思っとったわ」

話せば悪い奴ではないことは分かった。
唐揚げさんの言う『扱いづらさ』も、まあなんとなく理解出来てきた。
こいつ、感情の起伏が案外激しい。
長いこと売れ残ってたために性格に問題が出たのか、すぐにキレる。
ワカメと話すようになった俺にミントガムさんが遠慮がちに聞いてきたことがある。
大丈夫なのかよ。そう心配そうな顔をして聞いてくるのだ。
ミントガムさんのそんな顔を見るのは初めてで、過去にミントガムさんに何かあったかなんて知る訳はないが、何があったんだなんてことは容易に想像できた。

「しかも目つき悪いで。せやから避けられるんや」

コイツは逆上すると目が赤くなる。
潰すだのなんだのと口走っては売れ残りのワカメが何を言ってるんだとさらりと流されて終わるのだが、キレたコイツはなかなかトラウマものかもしれない。

「そっちは目死んでるけどな」
「死んでへんわ。ゆるキャラなだけや」
「んな気だるいマスコットいらねー!」

オレはコイツにキレられたことはないが、心配そうに尋ねてきたミントガムさんにキレたワカメを見たことはある。
本気でビビるミントガムさんを見て、ちょっと可哀想に思ったくらいで。
まあそのミントガムさんも、今は売れて居なくなってしまったけれども。

「ミントガムさん今頃なにしてるやろな」
「しらねー」
「俺らはこのまま仕舞いか」
「ぜんざいのくせに弱気だな」
「白玉ぜんざいや。ええ加減覚えろ、ワカメ」
「茎ワカメですーそっちこそ覚えろよな」
「知るか、同じやろ」

最後はどうなるかなんて、知る訳がない。
でもきっと、食べてもらえた方が幸せな最後になるんだろうとは思う。

「廃棄されるんは、いやや」
「何か言った?」
「なんも言ってへん」
「あ、そ」

そこで会話は切れてしまって、飽きてしまったのかワカメはぐうぐうだらしない格好で寝始めてしまった。
気まぐれなやつだと、俺もひと眠りしようと横になろうとしたら、上の段にいるモンブランさんに思いっきり横腹を蹴られた。

本当に容赦ないヒトだ。

「なんすか」
「…」
「足、どけてもらえませんか」

腹の上に足が乗ったままなんですけど。

「大切にするんだな」
「何をっすか」
「…」
「あの」
「…」
「すんません、足どけてもらっていいですか」

苦しいです、と言う前に、どけるついでとばかりにもう一度腹に蹴りを頂いて、モンブランさんは気が済んだのか下の段にいる俺の目の前に足をぶらつかせながら寝始めてしまった。
文句の一つでもいってやりたいのをぐっと堪えて、腹に印字された日付を見やる。
後三日か。ホントは寝てる暇なんてないんだろうけどな。
買われないなら、寝てるしかない。
自分も寝てしまおうと目を閉じた瞬間、感じる浮遊感。

「え?」

客が自分の事を手にとって見ている。
気がついた時にはジュースやお菓子や弁当の入っているカゴの中に一緒に入れられてしまっていて、自分に何が起こっているのか理解した時には、もうレジにいた。

「おいワカメ!」

レジ横で寝転がっていた唐揚げさんが慌てて起き上がって叫ぶ。
声に気付いたモンブランさんも驚いたように目を見開いて、寝ていたムースポッキーさんも飛び起きた。
だるそうに身体を起こしたワカメは間抜けな声で返事をして、レジにいる俺に気付くと口をぽかんと開けて固まってしまっていた。

「ぜんざいが買われるんだよ!」

慌てる唐揚げさんの声とは裏腹にワカメは随分冷静で、袋に入れられて視界が遮られる瞬間に見えたのはいつもとそう変わらずに笑う顔だった。








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以前のサイトに載せていたものがあまりに酷かったので書きなおしました。
…これでも。



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