創作 | ナノ



死にたがりの届けようとしない声




「突然なんだけど、ちょっと言っていいか」

本当に突然だった。
突然ウチに来て、何の変哲もない普通の話をしていたら突然真面目な顔になって、突然冗談みたいなことを言い出す。
冗談だろうと受け流そうとすると、冷たい奴だと勝手に非難された。
もうどうにでもすればいい。そう思った。

「オレ、死にたいんだ」
「何を突然」
「だから突然なんだけどって、断っただろ」
「まさかそんな話だとは思わなかったんだよ」
「だって死にたくなったんだもん」
「寝ろ。そして全てを忘れろ」

なんでかな。あいつも笑ってるし、オレも笑って答えてる。
死にたいとか言ってるのもいつもの冗談で、何も気にすることはない。
けどなんか、なんとなく、気になる。そんな感じはした。

「何で、そう思うんだ」
「卒業してさ、進路も決まってさ、4月から晴れて大学生だろ。なんか、実感ないんだよ」
「うん」
「高校も特別思い出なかったし、大学生になるのも特に楽しみだとか思わないんだ」
「うん」
「なんか周り見てたらさ、オレだけ違うんだよ」
「うん」
「そしたらなんか死にたくなった」
「なんだよそれ」
「大学入ったら今度は就職。実感ないよな。就職難って言われても」
「だから」
「お前専門学校なんだからオレより就活早いよな。どう?」
「どうって言われても、まだ実感ないよ」
「だよな、オレもそう」

だから、それでどうして死にたいって思ったんだ。

「実感ないんだ。そしたら無性に死にたくなった。ダメかな」
「分からないよ」
「だよな、オレもそう」
「じゃあ聞くな」
「うん、そうする。ごめん」
「別に」
「忘れてくれ」
「ああ」
「あ」
「何だよ」
「大学生活さ、一つだけ楽しみなことがあるんだよ」
「何」
「一人暮らし。家族を気にせず好きにしてられるからな」
「そっか。よかったじゃん」
「うん、よかった」

オレさ、何であの時にお前が死にたいって思ったのか、聞きたかったよ。




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