▼ 深入り、無用
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シャワーを浴びて、化粧を軽く直す。
あ、つけまつげ取れかけてるじゃん。
私は少し化粧が濃い。本当はもっと薄いほうがオトコは好きなのだろう。知ってるけど、そんなことはしない。だってそんなの媚びてるみたいでいやじゃない。パチンとファンデーションを閉じると、シャワーを浴びたエースが出てきた。もう服を着ている。帰る気満々だな。私は可笑しくてちょっと笑ってしまった。
「なに笑ってんだよ」
少しムッと唇を尖らせたエースは、そのままのバイクのキーを手にする。
「・・・帰るか?送ってくよ」
その顔はとても優しくて、太陽みたいだ。要はすることだけして、はいおさらばと言っているのに。イケメンって得だな。なるほど。この笑顔で何人もの女を骨抜きにしているのかとぼんやり思った。
エースはいつもバイクで来て、家まで送ってくれる。後ろに乗ってる間たまにスマートフォンを借りて音楽を聴く。センスのいい洋楽がたくさん入ってるから。私たちは特に会話という会話もなく別れる。
家、ホテル、家。
私とエースのこの関係も、もう半年くらい。長いような短いような微妙な時間だけど、途切れることはなかった。忘れかけた頃を見計らってエースから電話があるからだ。他の女が見つからなかったのか、今日は私の気分だったのか。すごいタイミングだな、といつも思う。私が人肌恋しくなる周期でも把握してるのだろうか。あぁ、経験が多いとそういう勘も身につくのかも知れない。なるほど。さすがだ。
電話の内容はいつも簡潔。
「何してたんだ?今から会えるか?」
で、家、ホテル、家。
定期的に会っているのに私たちはお互いのことをほとんど知らない。いや、違う。エースは私のことを全然知らないだろうけど、私は知ってる。エースはモテるし、実際に他の女と歩いているのを見かけたこともある。そっけない顔をしているエースと嬉しそうに話しかけている女。ひどく滑稽だと思った。あぁ、私も同類か。私もイケメンに群がる女の一人だ。でも私が他の女と違うところは、それを自分で自覚してるってこと。
【深入り、無用】
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