▼ 【甘えんぼに効くすり】
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「帰ったぞー」
「おかえりー」
「なんで出迎えてくれねぇんだよ。ピンポン押しただろー?」
「だって今お鍋かけてるし。ちゃんと鍵開けてあったでしょ?」
「おいおいそれじゃ危ねぇだろうが。物騒な世の中なんだからサッチくん以外は鬼か悪魔だと思えって何遍も」
「そのサッチくんが駅ごとにメールくれるおかげで、鍵開けたのは数秒前だってば」
おぉそりゃ愛の力だなんだとサッチは一瞬顔を輝かせて、でもすぐに口を尖らせた。
言いたいことは分かる。なんでってそりゃ毎日同じだからだ。
相変わらず不満そうにこちらを見つめているサッチを視界から外して、お玉に掬った味噌を菜箸でくるくる。近頃の味噌ってのはこれだけで立派な和食になるんだから有難い。
「…サッチ、張り付かないで。着替えておいでよ」
「なーなー」
「失敗しちゃうじゃん」
「おかえりのチューがまだなんだけど?」
「…バカ」
今日もまた私はサッチの構ってチャン攻撃に悪戦苦闘。嬉しくないわけじゃない。ただ第一印象がとりあえず美人が好きなんだろう、というかなり軽めの印象だったから未だ慣れないのだ。
「アンちゃん、真っ赤な顔でバカってそれ俺らの業界じゃあご褒美以外のなにものでもねぇから」
「業界?何の?」
「変態?」
「そんな業界、あったら困るなぁ」
「アンちゃんが可愛すぎるってのも有名だぜ。俺らの業界じゃあ」
「…真顔で何言ってるの。今度薬取って来てあげるよ、変態とおっさんに効くやつ」
仕事モードのスーツ姿のまま何を言ってるんだ、このおっさんは。頭に乗っているのは一日の労働を以てしても未だ完全系を保つリーゼントで、なんかもうどうなんだろう。
「おっさん関係なくね?てかおっさんじゃなくてお兄さんです」
「おっさんじゃん」
「お兄さんです」
「おっさ、」
「お兄さんです!!なんならにいにって呼んでもいいんだからね」
「…薬取ってくるね」
【甘えんぼに効くすり】
サッチ誕。このあとケーキでももらってでろでろな夜を過ごせばいい。