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「頭平気かよい?」

マルコに事の顛末を説明すると、またしても頭を心配された。
全く要領が掴めねぇと渋い顔をしているマルコに、そこをなんとか協力してくれと頭を下げる。その拍子にグラスに入った水が零れてテーブルを濡らした。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、すまねぇな。俺ジャックダニエルと、マルコ何すんだ?」

平日の昼間っから冷房の効いた喫茶店で男が二人喋ってるなんて、世間からすればお前ら働けよ!ってなもんだろう。実際ふきんを持ってきてくれたウエイトレスの女の子の顔は怪訝そうだ。そういう視線、もう慣れちまったけど。

「部屋の穴のことはまぁ考えても埒あかねぇだろうから置いておくとして、そのアンって女の手がかりになりそうなもんはグランドライン大学、8月13日、モビーディックっつうマンションに一人暮らしってことくらいかい」
「あと星好きな。ペルなんとかって流れ星見に行くつってたぞ。近所の山に」

「あぁ、ペルセウス座流星群かい」
「…お前、かっこいいな」

「気色悪ィこと言ってねぇでちったぁ頭働かせて思い出せ。ったく夜通し喋ってこの程度の情報しか得られねぇなんざ、逆に感服するよい」
「んなこと言ったってよぉー。俺探偵じゃねぇし。つうかお前本職だろ。こう、ばばーっと名推理してくれよ」

「阿呆か。探偵業ってのは情報の積み重ねが命なんだ。依頼主がお前みたいな風来坊じゃあ、どっから手ェつけりゃあいいかすら定まらねぇ」

時間を掛ける気はねぇんだ。
そう言ったマルコの顔は、言葉とは裏腹に随分楽しそうだった。

「それにしてもそのアンって女はそんなにいい女なのかい」
「あーいや、惚れた腫れたっつう感じじゃねぇんだよ。巧く言えねぇけど不思議と気になるんだよなぁ」

「おっさんの惚気なんざ聞きたくもねぇよい」
「だっからそういうんしゃねぇんだって」

とにかく適当に当たってみるなんていう緩い方向性で話はまとまった。俺としてもそれらしい情報を掴んだら教えて欲しいって程度の話だから問題ない。俺も俺で調べてみるつもりだし。だって探偵みたいで楽しいじゃねぇか。


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「ほらよ」

数日後、例の如くたばこ屋にやってきたマルコはカウンターに数枚の写真と地図を置いた。テレビではどこぞのアイドルたちがおそろいのミニスカートをはためかせて歌っている。

「ペルセウス座流星群が今年見えるのは8月2日だ」
「お、それって今日じゃねぇか」

「そうなるな。次に見えるのが8月9日、その次が8月13日。ちなみに12年周期だよい」
「ん?アンは日にちを間違ってるってことか?」

「ガキの頃から星が好きってくらいだからその線は薄いだろう。もっともこの流星とは全く関係ない日のことを言ってんのかもしれねぇがな」
「たぶんその流星のことで間違いねぇよ。勘でしかねぇけど、日にちの話が出たのはそのペルなんとかだけだし」

「となれば何故アンは8月2日じゃなくて13日、つまり24年後の日にちを言ったかって話になるが、…」
「おぉ!…ってなんだよ、勿体つけんなって」

どうやらマルコは答えに行き着いているらしい。なんで分かるかっつうと、顔がまさにドヤ顔だから。言いかけたまま言葉を切ったマルコにやきもきしてせっつくと、なんとマルコはまた通りに目をやっていた。その先にはべらぼうな美人。

…おいおい、まさかこのパターンは。

「悪ィ。野暮用だよい」
「はぁあああぁ!?このタイミングで!?つうかなんだよあの美人!前と違くねぇか!?」

絶対あれ捜査協力者でもなんでもねぇだ
ろ。昼間っから女遊びすんなよ羨ましい!
カウンターから身を乗り出して叫ぶとマルコは颯爽と道を渡りながら振り返った。

「あとは自分で考えろよい。あぁそうだ、モビーディックってのは今建築申請中のマンションだ。お前のアパート取り壊して立てるんだとよい」
「…え?まじ?」

初耳。
なに?俺のアパート無くなんの?

「…何だっつうんだよ、あのドヤ顔はよぉ」

しれっと聞かされた衝撃の事実に力が抜けた。
大家のばあちゃんんなこと言ってたか?あぁそういやちょっと前に、帰ったら連絡くれって置き手紙がドアの下に挟まってたな。うっかり忘れちまってたがもしかしてこのことだったのか。それにしても建設予定ってどういうこった。

アンはまだ建ってもいないとこに住んでて、8月13日ってのは24年後のことで。えっと、だから、…ん?

どうにも気持ちが落ち浮かない。
そわそわ、そわそわと意味もなくタバコ屋の狭いカウンターから出たところで、あ、と間抜けな声がでた。
そうか、行けばいいのか。今日がその流れ星の日だってんなら、行ってみりゃあいいじゃねぇか、その山とやらに。
そうと決まれば話は早い。さっさと店じまいをした俺は、アンが話していた山へ向かって歩き出した。

「キャ」
「っと、悪い」

柄にもなく考えごとなんてしちまったせいでうっかり誰かにぶつかった。慌てて後ろを振り返ると、なにやら大きくて長い荷物を肩から下げてた女がいた。

「大丈夫か?荷物も」
「あ、はい。平気そうです。これ、天体観測用の望遠鏡でやたら重いんですよね」

ぱっと顔を上げてふにゃりと笑いかけてくる女を見て、俺はぱちくりと瞬きをした。

「…アン、じゃねぇな」

そこにはどことなくアンに似た女が立っていた。


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「ただいまー」
「あらおかえり。こっち寄ったんだ」

「うん、現地集合にはまだ早かったからさ。もう準備できてる?」
「まだ望遠鏡出してないのよ。用意しといてくれる?」

「いいよー。お父さんは?」
「寝ちゃってるわ。今日は徹夜だから寝貯めしとかないとってさ。ふふふ」

手をエプロンで拭きながら出てきたお母さんに続いてリビングに向かうと、ぐおーっというイビキが聞こえてきた。

「昼寝にしては爆睡だね」
「そうねー。この人はいくつになっても子供みたいだから。出会った時から全然変わらないのよ。ずっとドレッドだし」

目を細めて笑いながらお母さんがそっとタオルケットを掛ける。

「知ってる」
「あら、あなたに昔の写真見せたことあったかしら?」

不思議そうに首を傾げるお母さんに、聞かせてあげよう。
昨日、今日と私が体験した不思議な話を。

「ねぇお母さん。二人が出逢ったきっかけ、もしかしたら私が作ったのかも」

ミンミンミン、蝉の声と大きないびき。
テレビでは懐かしのヒットメドレーが流れていて、ミニスカートのアイドルが元気よく歌っていた。






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