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▼ 振り返らない背中に

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「・・・はぁー」

思いきり吸って吐き出す。

「・・・なんだよい」

マルコが顔を上げて口を尖らせた。なんでもないと言いながら背中をトントンと叩くと、マルコはまた私の肩に顔を埋める。ため息ではない。マルコの身体から入り込んできた黒かったり壊れそうだったりするもやもやした何かを体外へ吐き出したのだ。

世界最強、白ひげ海賊団、一番隊隊長、不死鳥。マルコやマルコに付随するものを形容する言葉は世界中に溢れている。
不死鳥マルコは強い。対峙する者にとっては途方もなく大きな壁だろう。いい意味でも悪い意味でも世界中で口にされるそれらは、いずれにしてもある種の畏怖のようなものが含まれていて。
腰に回された腕にさらに力が籠もる。

「イヤか?」

マルコは私の前ではとても甘えん坊だ。
恐らくまだ口を尖らせたままなのだろう。ぽってりとした唇が首に当たって私はふふっと笑いを漏らす。

「いやじゃないよ」

縋るように丸まる背中を撫でる。優しく、優しく。
大きな背中。それは背後の全ての人を、ものを守り続ける。たくさんのものを背負って、皆の向かうべき先を示す道標。
マルコがこんな姿を晒すのは、私の前だけ。私しか知らない強者の脆さ。

「そろそろ行くよい」

でもあなたは去っていく。
海へ、空へ。

そして、愛す。
私じゃない誰かを。

マルコは名残惜しいとばかりに私の両手を包み、手の甲を親指でなぞる。私はゆっくりとその繋がりを解き、大きな大きな背中を押した。

「いってらっしゃい、マルコ」

またね、とは言わない。
海は広いから、空は高いから。


でも、
【振り返らない背中に】
ありったけの愛を。




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