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▼ 黙って、見つめて、囁いて

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「はいよろこんでー!」

振られた腹いせに居酒屋へ行った。元彼は独占欲の強いやきもち焼きだったから随分いろんなことを我慢したのに、なんと浮気された。挙句に振られた。

「ぷはーーーっおかわり!そこのそばかす君!おかわりーー!」

だから私は今、居酒屋で飲んだくれている。付き合っている時は、居酒屋さえNGだったのだ。本当はもっと豪遊したいけど大学生の私にはそんなお金なんてない。それにここは馬鹿男と付き合うまでは結構来ていた鮭茶漬けが絶品のお気に入りだ。

「お待たせしましたー・・・ってお前大丈夫か?飲みすぎだろ。一人だしよ」
「なにおうっこちとら振られて傷心一人酒なんだから!ほっといてよっ」
「・・・へー」
店員のそばかす君はこちらを憐れんでいるのか、励まそうとしているのか。とにかく微妙な表情でこちらを見た。
私の記憶があるのはここまで。


「・・・、ん」

体がふわふわと揺れる感覚に意識が戻ってくる。あったかいなぁー。
眠っていたらしい。重いまぶたをゆっくり開くと、目の前に真っ黒な髪の毛があった。

「へ?!」
「おぉ起きたか?」

驚いた反動で体を起こそうとしたけど、できなかった。

「そ、ばかす君!?」

私は何故かそばかす君におんぶされていた。何で?ていうか頭いたっ

「覚えてねぇの?」
「全く。え、あ、すいません。降ろしてください」
「やだ」

・・・あれ?なにこれどういう状況?聞けば、あのあと私は客や店員に絡みまくったらしい。とりわけこのそばかす君に多大なご迷惑をおかけした、らしい。でもだからといって降ろしてくれない意味がわからない。やだって何?

「す、すみませんデシタ。ごめんなさい。あの、降ろしてくだ・・「着いたぞ」」

そばかす君が私を背中に乗せたまま器用に鍵を開ける。落ちないように支えてくれる片手がとても優しく感じて、ちょっとどきっとした。思えばこのそばかす君は結構イケメンだ。とりあえず現在地を確認する。身の危険は確認しないと。
結構古ぼけたアパートだ。

「えっと・・・ここはドコデショウカ?」
「俺んち」

あ、俺エースな?そばかす君じゃねぇぞ?なんて茶化しながらドアを開けて中に入る。どうやら本人に向かってそばかす呼ばわりしたらしい。あぁなんだか盛大にやらかした感が否めない。

おんぶされたまま入った部屋は懐かしいような生活のにおいがしたから、なんとなく大丈夫な気がした。わけがわからないけど、このまま流されるのも悪くない。だって私今日はアソブつもりだったし。あ、ついでに私ったら酔っ払いじゃん。
じゃあいっか。酔っ払いの思考回路などこんなものだと考えられる時点で、判断能力は鈍ってはいないんだろうけどまぁいいことにした。本当はこういうアソビは人生で一度もしたことがない真面目ちゃんなんだけど。
私を背負ったまま器用に靴を脱がせたそばかす君改めエースはスタスタと寝室らしい部屋に向かって、ベッドに優しく降ろしてくれた。そのまま覆いかぶさるように抱きついてきたエースは前置きもなくあっという間に舌を遣って私の唇をこじ開ける。随分男らしい。
苦しいけど優しいキス。

「アン、好きだ」

唇が少し離れる度にエースはすきだ、すきだと囁く。
すきだ、すげぇすき、ずっとすきだった。

・・・ずっとって何?蕩けた頭の片隅で浮かんだごく自然な疑問にも、あー前はあの店よく行ってたしなぁなんて自己完結。
どうでもよかった。そんなこと。前の彼氏とか、昨日とか一分前さえ、どうでもいいと思った。

大切なのはきっと、今、この瞬間の気持ち。

「・・・私も好き、かも?」

抱き合っておでこをくっつけたまま私がそう言うと、エースはとても嬉しそうに微笑んだ。あぁなんかすごく幸せ。
また唇が近づいてきて・・・

「にくぅううう!!!むにゃむにゃ」

は!!??

「あぁ紹介するよ。弟のルフィだ。あんまりデケェ声出すと起きるから気をつけような?」

嬉しそうにちいさく囁いて行為を続行しようとするエース。

「な?じゃないわよっ!!!!!!」

ありえないっ馬鹿じゃない!?なにこのそばかすっ!
でも、叫んだつもりのその声は、何故かとても小さくて。
私たちは小さく笑ってまた唇を重ねた。



【黙って、見つめて、囁いて】
(ッ、アン・・)
(んっ)
「にくぅうううう。グガーー」




これはひどい



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